ドンヴァン渓谷の「愛の市場」~クアンニン省

ビンリエウという県は、美しい風景と、「愛の市場」に代表されるような特徴的な文化が有名である。「愛の市場」とは、一年の中で「風を避ける日」(旧暦の4月4日)にしか開催されず、太陽が昇る前から開かれる市場のことである。

「愛の市場」はクアンニン省ビンリエウ県ドンヴァン市にあるカオバライン山の麓、ドンヴァン渓谷で開かれる。この地域に住むザオ族の人々は、「愛の市場」がある日は、森に棲む野生動物を避け、どんな仕事もするべきではないと考える。というのも、この日に行った仕事は上手くいかず、家を建てても崩れ、木を植えても育たないと言われているからである。そのため、この日は全ての仕事を後回しにして市場に出向き、市場で開催される遊びや催し物に参加するのが良いとされる。「愛の市場」に出向いた観光客も歓迎され、人々と一緒に心いくまで遊びに興じる。

「愛の市場」では、ザオ族の男性の人生において重要である伝統的な成人儀礼がとり行われる。成人儀礼では、一人一人に祈祷師が付き添い、3~7人の他の祈祷師が儀式の補助をする。成人儀礼の他にも、高山部に住む少数民族の女性達が料理の腕を競い合うコンテストが開催される。

「愛の市場」において最も特徴的なのは、ザオ族の踊りや歌である。観光客は、きらきらと輝く腕輪やアクセサリーの溢れる光景に圧倒され、伝統的な歌や踊りを心いくまで楽しむことだろう。また、綱引きやボールを投げ合う遊び、棒の押し合いといった遊びにも参加することが出来る。


市場で売られる色とりどりの商品

「愛の市場」は、若い男女が出会い縁を結ぶきっかけの場でもある。若い男女以外でも、若い頃はお互いに好意を持っていたにも関わらず、結婚には至らなかったかつての男女が再会する場所でもある。市場にはお酒の香りが漂い、みなお酒を飲みながら、夏の忙しい日々を前につかの間の休息を楽しむ。誰かが口ずさんだ歌、突然歌われだした男女間の相聞歌、話し声、挨拶の言葉、楽しそうな笑い声が混じりあい、市場中に響き渡る。

「愛の市場」では不快なことなどは存在しない。市場に満ちた笑い声や喜びは村中に響き渡り、カオバライン山までこだまし、森の静寂な空気へと溶け込んでいく。

午後になり市場が終わる時間が近づくと、人々は別れを惜しみながらも来年の「愛の市場」で再び会う約束をする。帰路につく人で道はごった返すが、道沿いには市場の余韻に浸る人もまばらに見られる。