ベトナム版のひし餅 フエに伝わるテトの名物

日本はもうすぐひな祭り。桃の節句と言えば、ひな人形とともに欠かせないものが、ひし餅(もち)だ。白と薄ピンク、緑の三食の日本のひし餅によく似た餅がベトナムにもある。五色餅といい、旧正月のテトに欠かせない存在。今年もテトの供え物として、彩を添えた。

写真㊤=日本のひし餅にも似たカラフルな五色餅。テトに欠かせない風物だ

世の中の移り変わりは近年、ますます早くなった。ベトナムも例にもれず、日々の暮らしはあわただしくなり、テトのならわしや伝統行事も忘れ去られがちだ。そんななか、トゥアティエン・フエ省の工芸村では、古くからのしきたりや風習が今も地域住民によって守り続けられている。

古都、フエ市のフオン川の川辺、キムロン村は、先祖への供え物などとしてテトに欠かせない「バンイン」(餅)の産地として知られる。中でも、グリンピースや砂糖を使って作られるバングサック(五色餅)は、色合いといい、角形の形といい日本のひし餅にそっくり。色は、日本の3色より黄色とオレンジの2色多く、よりカラフルな印象だ。

村の人々は毎年、テト前から五色餅づくりの準備に追われる。早朝から材料を準備し、時には通常の仕事を終えた後の深夜にまで作業が及ぶ。五色餅作り20年の経験を持つマイ・チ・ハウさんはテトのシーズンに、さまざまな大きさや形の餅を1日当たり約5000個店に並べ、収入にしている。

村の古老によると、数十年前まで、餅づくりは村の何十という家庭で手作りされていたという。しかし現在は、十軒前後の家庭で、一部は機械の力を借りながら作っている状態。先祖代々続く国民的な行事の伝統としきたりは年々、薄れつつあるものの、同省の工芸村にでは、まだまだ大切に受け継がれている。