民衆の〝芸術〟を今に 民画復活にかける研究者

ベトナムの各地に残る民画の一つ、キム・ホアン木版画は18世紀に流行したが、その後すっかりすたれてしまった。そんな埋もれた大衆芸術を復活させようと研究を続ける女性がいる。美術収集家でハノイ陶磁器博物館館長でもあるグエン・ティ・チュ・ホアさんだ。著作物や修復活動を通じて、伝統文化の継承に力を入れている。

写真㊤=ホアさんの著書「キム・ホアン 民画」

ホアさんの著書「キム・ホアン 民画」によると、キム・ホアン木版画は18世紀後半、旧正月の風物として、ドンホー、ハンチョンの民画と並ぶ人気ぶりだった。その後、はやりすたれを繰り返し、時の流れとともに、忘れ去られていた。

ホアさんは、陶磁器を収集する過程で、国内各地の民画がすっかり途絶えてしまっていることを知り、何とか復興できないかという思いから研究を始めた。「すでに、民画にたずさわった人のほとんどが亡くなり、資料もほとんど残されていませんでした」と当時をふり返る。乏しい情報をたよりに研究を続け、キム・ホアンやドンホー、ハンチョン、フエなどの民画に関する著書の執筆を始めた。


「フォー・ラブ・オブ・ハノイ賞」の受賞式に出席したホアさん(左)

2016 年には、同僚とともに、キム・ホアン木版画を復元するプロジェクトをスタートし、2019 年には、1冊目の著書も出版された。昨8月には新刊も出版された。2冊の著書は、ナショナル・ブックアワード2020や、ハノイの発展に寄与した書籍などに与えられるフォー・ラブ・オブ・ハノイ賞を受賞するなど、脚光を浴びた。

こうした取組によって、キム・ホアン木版画は若者からも人気を呼び、国内だけでなく、海外のイベントなどでもベトナムの民画が紹介されるようになった。


多くの人に民画の魅力を知ってもらいたい。そんな思いから、ホアさんは240点の作品をダナン美術館に寄贈した

木版画の故郷、キム・ホアン村に住むアーチスト、ダオ・ディン・チュンさんは、ホアさんらが進める修復訓練に参加している。「木版画については子供のころ、村のお年寄りから聞いたことがありましたが、当時は、その価値について十分に理解していませんでした。今は復元のために何かできればと思っています」と話す。

より多くの人に民画の魅力を知ってもらおうとの思いからホアさんはこのほど、ダナン現代美術館に240点の民画を寄贈した。「公共の博物館に多くの作品が集まることで、若い世代にベトナムの伝統文化が継承されていくことを願っています」とホアさんは話している。