ココナッツの木から楽器 ギネスブックにも登録

ベンチェ省のボ・バン・バさん(81)は、ココナッツの木から楽器を作るアーティストだ。代表作の一つ、巨大な胴部を持つダン・コ(ベトナム京胡)は、ギネス世界記録としても登録された。見た目だけでなく、その音色にも深い味わいがあるというココナッツ木の楽器の世界を紹介しよう。

写真㊤=ベンチェ省博物館に展示されている、バさんの製作した民族楽器(VNS Photo Hồng Linh)

バさんは地域の伝統的な音楽一家のもとに生まれた。父はボイと呼ばれるベトナムの伝統歌劇団の歌手で、学校時間の以外は、父や叔父の歌劇上演に同行するなど、幼いころから音楽に親しんだ。

父と叔父から南部の伝統的な音楽、ドン・カ・タイ・チュを学んだバさんは、様々な楽器とも共演。こうした体験が、楽器作りの基礎となり、心の奥深くにある音楽の情熱に火をつけた。

楽器製作を始めたのは2011年。ココナッツの葉で作られたさまざまな工芸品を見るうちに「ココナッツで楽器を作ったらどうだろう」と思ったのがきっかけ。そこから、わずかな寄付と地元当局から提供されたココナッツの木をたよりに、製作を始めた。


特大サイズの胴部が目を引くベトナム伝統の楽器、ダン・コ(ベトナム京胡)。ギネス世界記録にも認定された(VNS Photo Hồng Linh)

「楽器作りはベンチェ省のシンボルでもあるココナッツの木に対する私なりのトリビュート(賛辞)です。木は、私の人生であり、人々の暮らしそのもの。戦争のときも大きな役割を果たしました」とバさんは話す。

しかし、製作はすんなりとは進まなかった。他の木材と違って、ココナッツの木にはしなやかさや剛性が欠けていた。しかも、太陽にさらすと、割れ物のようにもろく、壊れたり変形したりする。こうしたハードルの高さが、逆にバさんの闘志を燃やすことになったという。

ココナッツの楽器は、組み合わせ方しだいで、低音は深く豊かに、高音は明るく生き生きしたトーンを奏でる。ただ、木が若過ぎると、シロアリの被害を受けやすく、100歳近くに老いると黒ずんで美観が損なわれる。赤色を帯びた樹齢70歳くらいの木が、最も楽器作りに適しているという。


木の幹だけでなく、殻も薄く加工して使う。ココナッツはデリケートで、加工には熟練を要する(VNS Photo Việt Dũng )

楽器のボディに使うココナッツの外皮は、よく乾燥したものを選別。内側の繊維を丁寧に取り除いてから約0.5〜1㌢の薄い層に加工する。これを何重にも塗料でコートする。木の皮だけでなく、殻や繊維、ココナッツ以外の水牛の角やヘビ革などを使うこともある。伝統の民族楽器以外にも、ギターや二胡を合体させたユニークなオリジナル楽器も製作している。


ギターや二胡を合体させオリジナルの自作楽器。バさんならではのアイデアが楽しい(VNS Photo Huỳnh Phúc Hậu)

バさんはこれまで製作してきた100以上の楽器を、ベンチェ省博物館に寄贈した。オリジナリティーあふれる楽器は来館者の目をひいている。「郷土の音楽文化と楽器を、末永く継承してほしい」とバさんは話している。