ASAN自由貿易協定(AFTA)の物品貿易に関する協定(ATIGA)のもと、関税率がゼロとなる輸入牛肉は、ベトナム国内の畜産業の大きな脅威となっている。

写真㊤=ハノイのスーパーマーケット「Big C」の売場に並ぶ豪州産の輸入牛肉。関税率ゼロとなる日が迫るなか、ベトナム国内畜産業界の危機感が高まっている。

輸入牛肉の消費量は、すでに急増傾向を示している。昨年、ベトナムには25万頭の牛と、2万6000トンの牛肉が輸入された。

ベトナム家畜協会のグエン・ダン・バン代表によると、2010年に3500頭だった輸入肉牛は、2014年には18万1000頭に増加。2年で52倍という急成長を示している。バン代表は、今年、豪州から輸入される肉牛は、消費の増加を背景に20~22万頭に上ると予想する。

カナダ政府はこのほど、高品質の牛肉を含む自国の農産物をプロモーションするイベントを行った。こうした動きは、同国が、ベトナムを潜在力の高い有望なマーケットととらえていることを物語っている。

ATIGAでの協定にもとづく2018年からの牛肉の関税ゼロ化、さらにベトナム国内の牛肉の消費増は、海外の多くの国々にとって、大きなビジネスチャンスとなっている。

ベトナム国内には、すでに豪州やニュージーランド、カナダといった世界有数の畜産国が進出している。ベトナム国内の業者は、価格だけでなく品質においても、非情に過酷な競争にさらされることになるだろう。

「輸入牛の増加は避けられません。というのも、国内の畜産業界は国内需要の70%しか満たしていないからです。国内産牛肉が、豪州やニュージーランドの大規模畜産業に対して、何らかのアドバンテージを持つようにならない限り、輸入牛肉は今後も増加し続けるでしょう。関税率がゼロになったとき、輸入牛肉は、より競争力の高い価格で攻勢をかけてくるでしょう」。バン代表は、危機感を募らせる。

ドン・ナイ家畜協会の専門家は「ベトナムでは自然環境や政策の関係で、大規模畜産が難しい状況にあります」と話す。「過去10年の急激な都市化が地価を押し上げ、畜産業のコストが上昇。その結果、ベトナムの牛肉は競争力が低下してしまいました。この問題を解消するには、長期におよぶ計画が必要です」

現在、ベトナムでは、ホアン・アイン・ザライ(Hoang Anh Gia Lai)社やビサン(Vissan)社など多くの企業が、畜産業に投資している。2014年の概算で、ベトナムは3億ドル(約360億円)相当の肉牛と5000万ドル(60億円)相当の冷凍牛肉を輸入した。ベトナムは現在、500万頭の肉牛を抱え、牛肉生産量は29万7400トンに上っている。