ベトナムのさまざまな業界で、熟練労働者の不足が深刻化している。企業はさまざまな求人プログラムを展開しているが、人材確保にいたっていない。今後、人材不足などが製造や出荷の遅れにつながる心配も出てきている。

写真㊤=縫製の分野は労働力が不足している業界のひとつだ
食品や農産品の輸出を手掛けるホーチミン市の食品メーカーは、例年生じるテト(旧正月)後の労働力不足に備え、今年の第1四半期に約200人の新規採用を計画した。しかし、実際にあった応募は30件に満たず、関係者らの間では年間約600人という従業員採用計画の実現について懐疑的な見方が広がっているという。

同社に限らず、最近ベトナム各地で、熟練したスタッフを探し出すのが特に骨の折れる作業になっているという。このような労働力の不足は、商品出荷の遅れなど、企業に著しい悪影響をもたらす可能性が懸念される。だが、熟練労働者の代替として自前で労働者を育てるにしても、新規雇用者の技術が現場の要求水準に達するまでには6-24カ月もの長期の訓練と多大な費用が必要だ。

多くの企業が、職員の退職で人材不足となることを恐れ、敏感に反応するようになっている。職員一人あたりの職業訓練費などが1カ月100万ドンにのぼっても支払う考えだという企業まである。それでも十分な人数の職員を確保できず、そのために結果的に受注に応じきれないという事態が生じているという。

この事態は、熟練技能労働者の求人の競争激化を引き起こしている。ホーチミン市の労働市場情報人材需要予測センター(FALMI)の3月の調査によると、ホーチミン市企業は3月のひと月だけで23000人の労働者を必要としていた。このうち35%が単純作業、40%は熟練労働者、25%が大学・大学院卒業者の需要だった。

そのなかでもホーチミン市は熟練労働者が不足しており、人材の需要の約50-60%しか満たせていないという。過去数年間でも、最も需要が多かったのは熟練労働者(全体の約50%)で、求人企業はIT関連からエネルギー業界、エンジニアリング、部品加工などの分野に及ぶ。FALMIのチャン・アイン・チュアン副センター長は、「熟練労働者や技能を持った労働者のニーズが今後ますます増える」と予測している。

ベトナムの人材採用サイトを運営するAnphabe社のタイン・グエンCEO(最高執行責任者)は、今年末ごろには労働力不足が解消するとみている。アセアン経済共同体(AEC)の発足により人材の流動がより自由になり外国人労働者が雇いやすくなるためだが、同時にベトナム人労働者が敬遠され就労がより厳しくなるリスクもはらんでいると指摘している。