2015年のベトナムの経済成長とインフレの抑制、自由貿易協定の締結などを追い風に、ベトナム経済は今年もさらに発展すると専門家らは楽観的な見方を強めている。ベトナム国家金融監督委員会(NFSC)がこのほど、2016年版の最新の経済レポートで報告した。

インフレーションは2-3%台で安定
NFSCの経済リポートでは、2016年の国際貿易が今まで以上にベトナムの輸出にとって追い風となるとの見通しが示された。貿易額の拡大は、2015年の3%増を上回る3.9%増となる見込みだ。商品の低価格化の傾向は続く予想だが、昨年よりも小幅な下落になるとみられる。

ベトナムでは、2015年のインフレ率が2011年以来最も低い上昇となる0.6%にとどまった一方で、GDPが6.68%増(予想値)となった。報告書では、この結果が、2016年とそれ以降数年間のベトナムの経済成長の推進力となるとしている。また、昨年調印された複数の自由貿易協定が今年、効力を持つことになり、ベトナムの輸出市場を拡大する助けとなるという。

一方で、NFSCは2016年のベトナムの経済が直面する課題も指摘。課題は主にマクロ経済的な安定性や財政・金融政策のもとでの経済支援予算に関連するものだ。例えば、公的債務の返済という重圧がさらに重くなりつつあるなかで、企業支援策に割かれる予算は非常に限定的となるとみられており、減税や公共投資が拡充される可能性は低いと分析している。

金利の面では、今年は様々な要因が圧力となることを示唆した。具体的には、インフレーションによって人民の期待値が高まり、銀行や金融機関に預金金利を上げさせる圧力となると予想。また、私企業の融資需要は増え続ける一方で、国債発行の需要も減退しないだろうとみられ、米国の利子率上昇が国内通貨と海外通貨の金利格差を縮めている。これらのことは、外国為替レートを安定させるための利率引き下げをベトナム中央銀行に思いとどまらせる要因となる。

信用リスク引当金の需要も、銀行ローンの金利低下抑制の一因となる。さらに、米ドルに対する海外通貨価値の下落などが海外貿易の収支や外国為替レートのバランスを狂わせたり、貿易赤字を増加させたりする可能性もあり、現在は外国直接投資(FDI)による外貨収入や輸出、海外送金による収入が楽観視されてはいるものの、今後の外国為替レートによっては、国際収支も影響を受けることになるとしている。

これらの予測に基づいて、NFSCは2016年のコアインフレを3%、実際のインフレは2-3%程度と予想している。

経済成長に追い風
NFSCによれば、2015年にGDPの11.5%だった国庫からの公共投資予算は、今年はGDPの10.5%に減少する見込みだ。しかし、外国直接投資(FDI)や民間投資は堅調に推移するとされており、GDPの31%という投資総額の年間目標を達成できる予想だ。特に、環太平洋経済連携協力協定(TPP)の調印によって、今年はベトナムにとってFDI誘引の好機であり、前期実施された企業支援政策のおかげで、民間投資も伸びると推測されるからだ。

その間にも、金融リストラや不良債権の払しょくが進むことにより、財政システムも健全化し、私企業への融資能力も拡大されるだろうと期待される。

2016 年の財政収支に関しても、マクロ経済の安定、生産や貿易の改革、輸出の拡大などのおかげで、ベトナムの国家収入は年間予算を達成できる見込みだ。

課題としては、ベトナム国内の経済予想や2016年の発展実施計画の指針などに影響を与えうるような、世界経済の想定外の変化が挙げられる。企業による投資や消費は増加傾向にあると予想されるが、利率やインフレ上昇に人民の購買力が抑制されてしまうため、2015年よりは増加率は抑えられる見込みだ。貿易赤字は膨らむ予想で、企業は、特に中小企業はさまざまな困難に直面することになろう。

2016年の輸出は、世界的な交易の拡大から、2015年以上に増加すると期待される。今年効力をもつことになる自由貿易協定(FTA)の締結が、ベトナムが特に繊維や衣服、くつ、農業製品、木材加工品、海洋水産物などの市場を拡大する助けとなるだろう。NFSCの予想では、ベトナムの年間経済成長率は6.7%~6.8%に達すると見込んでいる。