労働生産性向上と賃金アップのバランスが課題 ベトナムのくつ製造業界

ベトナムのくつ製造業界は近年、世界第4位、アジアでは第3位の規模と目覚ましく成長した。しかし、工場での生産性を比較すると海外の同業者の60~70%にとどまっている。また、労働賃金の引き上げによる海外企業離れなど、新たな課題も指摘されている。

ベトナム国家賃金協議会(NWC)は今年3度の会合をもち、2016年の最低賃金の12.4%増を提案した。だが、労使ともに、この提案に満足はしなかった。ベトナム国内全土には約800社以上の皮革製品・製靴メーカーがある。このうち、外資系企業はその25%以下だが、業界の輸出額の77%を占めている。海外のくつメーカーの60~70%にとどまる労働生産性を理由に挙げ、「労働生産性が上がらない以上、最低賃金を引き上げるべきではない」というのが企業側の主張だ。

一方で、商工省傘下の皮革製品・靴調査研究所(LSI)のブー・ゴック・ジアン元副所長は、生産性が、設備や技術、労働環境といった企業側のさまざまな条件によって決定されることを指摘。労働者側の視点から、「生産性の低さの責任を労働者に押し付けるべきではない。(企業が生産性の低さを理由に賃金アップを抑制することは)業界発展のためにならない」と強調する。

ジアン元副所長によると、この20年間の皮革製品・製靴業界は世界的には技術革新連続であったにもかかわらず、ベトナム国内では業界の変化は乏しかった。資本金の不足、時代遅れの設備や製造技術、企業運営力の弱さ、管理職の人材不足などがあり、大多数を占める中小企業の労働生産性が低いままというのが現状なのだという。

労働者にとって目先の恩恵となる労働賃金の引き上げだが、一方では外資系企業の撤退というリスクもはらむ。ベトナムに進出している外国企業の約80%は、「労働コストの安さ」を投資理由に挙げており、実際、ベトナムの革製品や履物の約60%が、人件費の安い中小メーカーへの製造委託によって賄われている。ところが、ベトナムの最低賃金は近年継続的に引き上げられ、過去5年間の平均増加率は16%だ。ベトナムの大きな利点と魅力だった「安価な労働力」が失われていることは確かで、この傾向を大きな圧力と感じる海外企業が、さらに賃金の安い他国への転進を模索する動きもみられるなど現状は厳しい。

今後、さまざまな自由貿易協定が発効すれば、関税障壁は引き下げられるが、技術的な面での非関税障壁が設定されることとなり、ベトナム国内の中小規模の皮革加工や製靴会社はますます厳しい挑戦に直面することになる。業界にとって、労働生産性の向上と技術革新は今後の発展に向けた解決策であると同時に、大きな課題でもあるのだ。

企業が技術を革新させ、労働生産性を高め、海外企業からの投資の求心力を維持するためにも、くつ製造業界における賃金や国のさまざまな優遇政策などが、今後も注視されそうだ。