近年、自宅で旧正月(テト)を迎える代わりに、休暇を家族での旅行にあて、ベトナム国内の観光地や海外各地を旅するベトナム人が増えている。高まるテト期の観光需要に応じるため、旅行会社は魅力的なツアーの提供や観光PRに力を入れている。

テトの時期はベトナムでは伝統的に最も長期間の休暇が取れる時期で、今年も約1週間の休みがとれる計算となる。もともとは、離れて暮らす家族や親せきが再会し、いっしょに時を過ごすための休暇だったが、最近ではこの長期休暇を、家族での旅行に利用しようという考えが浸透してきた。

旅行会社のフィディツアー社では、全顧客の約60%が、テト時期の観光ツアー申し込みだという。ベトトラベル社では、その率が実に約70%にものぼる。旅行商品としては3日間、または5日間の旅行が主力だという。

テトの長期休暇のスケジュールが今年は比較的早く発表されたため、市民は早期に旅行計画を立てることができた。旅行会社では、2か月も前から予約が相次いでいる。

ハノイ・レッド・ツアーズ社のグエン・コン・ホアン副社長によると、国内旅行では、中部地域の歴史的な遺跡訪問の旅の人気が高まっているという。ハノイを中心に北部の住民の間では、北東や北西部の少数民族の居住地を訪れ、各部族の独特のテトを体験する旅も注目だ。

家族でゆったりと過ごしたいという人には、リゾート地のダナンやニャチャン、または中部高原のダラットやベトナム南部のムイネー(ビントゥアン省)も旅行先として多く選ばれている。一方で、南部メコンデルタ地方では、最後の秘境と言われるフーコック島と、カンボジアとの国境に近いチャウドック(アンザン省)が観光客の一番人気だという。

今年のテトが例年と違うのは、海外へ旅行する人が急増したことだ。理由は簡単だ。海外旅行の魅力的な旅先やプラン、活動内容などが増えたことに加えて、旅行代金が国内旅行とあまりかわらなくなったからだ。

ベトナム人旅行者にもっとも人気の高い旅先は、カンボジア、タイ、シンガポール、中国と香港など。距離的にも文化的にもベトナムに近い国々や地域だ。特に若い世代の間では、手ごろな価格で旅ができるタイがもっとも〝熱い〟旅行先となっている。中国やシンガポールは、美しい景観やショッピングの楽しみのほか、独特の旧正月の儀式など目玉となる観光行事が旅行先として選ばれる理由となっている。

旅行会社などによると、テト時期の国内旅行件数は昨年同期比で約10~20%増加した。この追い風に、観光分野での消費を増やそうと、旅行会社もさまざまなプランを提案している。

一般的には、需要が増えていることに加え、コスト高の傾向もあって、旅行会社が提供する商品代金は20~30%値上げされている。海外旅行も、同様に約25%値上がりした。それでも、国内旅行も、海外旅行も、ともに件数が伸びているのが現状だ。

値上りが需要を減らす結果にはなっていないことなどからも、テト休暇がベトナムの観光業界を大いに刺激していることは間違いないようだ。