ベトナムでは昨今、起業を意味する「スタートアップ」という言葉が、富と独立の夢を象徴する流行語となっている。だがいくら創造的でもアイデアを温めているだけでは不十分で、良いビジネスモデルと資金の有効活用が、成功の重要な要素のようだ。いくつかの成功事例を紹介する。

課題は資金調達
子ども向けの英語学習ソフトウェア「モンキー・ジュニア」は、世界100カ国以上で70万件以上もダウンロードされている人気のアプリケーションだ。この学習ツールと、開発者であるダオ・スアン・ホアン氏は、いまやベトナムの起業を象徴する典型的な成功例と言える。

「モンキー・ジュニア」は昨年、米国のバラク・オバマ前大統領が議長を務め、カリフォルニアのシリコン・バレーで開催された「国際科学技術イノベーション展(GIST Tech-I 2016)」で1等賞を受賞した。この成功を手にするために、ホアン氏は開発などの事業資本として、100億ドンを超える資金を集める必要があったという。

ベトナム語学習アプリ「Vocab」も注目の起業例のひとつだ。この分野では初となる双方向型のアプリケーションを実現するため、同社のブイ・タイン・コン最高経営責任者(CEO)と社員らは「身を粉にして働いた」という。

オンライン型のベトナムのホテル予約事業をプロジェクトとして立ち上げた「Vntrip.vn」は、約300万ドルの起業資本を、海外の投資ファンドを通じて集めた。今では、通販サイト、アリババのジョン・ウー最高技術責任者(CTO)から、「事業価値は約3000億ドンに相当する」との評価を受けるほど成長を見せている。

一方で国内から資本を得た例も。オンラインによる食品通販事業を展開する「ハローマム(Hellomam JSC)」は、サイゴン証券傘下の有限会社、SSI アセット・マネジメント社(SSIAM)からの投資を獲得した。現在ハローマムの企業価値は約400万ドルと見積もられるまでに成長している。

創造的なアイデアをもつだけではなく、資本の調達も大きな課題だ。成功した起業家らはさまざまな方法で資金を集める努力をしている。

機会をつかめ
ベンチャー・ビジネスが社会的にも経済的にも注目を集めるようになり、ビジネスチャンスも増えている。起業の公的支援なども多様化しており、そのような機会をうまく利用することが重要だ。

グエン・スアン・フック首相は、ベンチャー企業の経済的な可能性に注目すると同時に、これらの企業の今後の社会貢献を重視。「政府は起業支援に力を入れ、さまざまな機会を提供していく」と強調している。具体的には、ベトナムでの起業を支援・発展させ、広報するための環境を整備する「2016-2021青年起業プログラム」が立ちあげられた。資金や人材、インフラなどの資源を動員して、スタートしたばかりのベンチャー起業育成にあてる。

ベトナムの起業家らは国際的にも注目が高まっており、これも追い風となりそうだ。ベンチャー育成のノウハウをもつ米国は、若い起業家の支援で、ベトナム政府に協力する意思を表明している。在ベトナム米国大使館は、ベトナム国内の創造的な活動や起業に対する資金援助を展開している一方で、ベトナムのベンチャーへの資本金流入を活性化させるため、情報提供をするなど、海外各国の投資家の注目を喚起する活動を展開している。

在ベトナムイスラエル大使館のメイラブ・エイロン・シャハール大使は、「ベトナムのベンチャー起業は国際的投資ファンドの注目を集めている」と分析している。「さらに努力すれば、ベトナム政府はそれほど時間をかけずにベンチャー・ビジネスの発展を支援する新たなメカニズムを構築し、独自でそれを回していけるようになるだろう」との見通しを語った。