ベトナム悲願の国産自動車生産「VINFAST」で始動 不動産大手ビングループ

ベトナムの不動産最大手、ビングループ(ズオン・ティ・マイ・ホア最高経営責任者)がこのほど、自動車産業への参入を表明した。異分野での事業展開が中心のビングループの挑戦に、ベトナム経済界は驚きに包まれた。

ベトナム北部、ハイフォンの経済特区にビングループが作る自動車生産工場は、約335ヘクタールの土地に車体やエンジン組み立てなどの製造ラインを完備したものとなる。来年後半にも、電動バイクの生産から始動する計画という。

今月2日、現地で開かれた起工式=写真=には、グエン・スアン・フック首相も参加。「国産自動車の生産は、ベトナムにとって画期的なことだ」と話し、国を挙げての期待を伝えた。また、国産自動車を生産するプロジェクトを構築するという同社の挑戦を高く評価し、「ベトナムにおける自動車製造業界の発展と進歩のために、多くのチャンスを生み、(ベトナム産業の)新しいページを開くことになるだろう」と語った。

ビングループのグエン・ベト・クアン副社長は、国産の自動車製造の実現を、「ベトナム人が最先端技術を習得したことの証し」とする。そのうえで、「自動車産業は国の主導的役割を担い、他の分野にも多大な影響を及ぼす産業分野だ。ビングループは世界水準の自動車ブランドを確立することで、ベトナムの重工業や製造業の発展促進、そしてベトナムの工業化や近代化に貢献したい」と語った。

ブランド名のVINFASTは、スタイル、安全性、革新性などのベトナム語を組み合わせ、ベトナム産自動車ブランドであることを強調する。ビングループは、この自動車ブランドで、東南アジアのトップクラスの自動車生産企業になることを目指している。同社の計画では、2025年までに年間約50万台の生産を達成する予定で、電気自動車、電動バイクのほか環境にやさしい自動車の内燃機関などを製造する。

VINFASTは最先端の技術採用にも積極的で、「環境にやさしい生産」を方針に掲げる。生産する自動車などはユーロ5やユーロ6.0など、欧州が採用している厳しい排気基準を満たすものになるほか、生産プロセスで利用するエネルギーも最大限、再生可能なグリーンエネルギーを活用するという。

ビングループは、不動産業やリゾート開発を中心に、ショッピングモールやコンビニなどの小売り流通業を展開、さらには学校や病院経営なども手掛ける多角経営の大企業だが、製造分野ではノウハウを持っていない。そこで、ベトナムの部品製造企業などとの共同生産や、海外の既存の車体メーカーなどとの共同開発などを視野に入れている。例えば、車体のデザインでは、アルファロメオなどの自動車の車体設計を担うイタリアの有名デザイン事務所と手を組む予定だ。

また、資金面では、VINFASTは世界有数の金融機関であるクレディスイスと覚え書きを締結し、最大約8億ドルの融資を受けた。ドイツのシーメンス社とも提携を発表するなど、製造業参入への準備を着々と進めている。

ベトナムの国産自動車の製造は、ベトナムの悲願ともいえる。政府も「2025年までのベトナム自動車産業発展戦略及び2035年までのビジョン」などで、国産自動車ブランドの確立を目指してきた。

だが、現状では、海外から輸入した部品を組み立てるノックダウン方式の生産が主流。国内唯一の自動車メーカー、チュオンハイ自動車(Thaco=タコ)も国産自動車の生産を目標に掲げてきたが、独自ブランドで製造しているのはトラックだけだ。18年からはASEAN域内の関税が0%になり、ベトナムへの輸入車がますます増えると懸念されるなか、このプロジェクトがベトナム独自の自動車産業として確立できるか注目されている。