サーキュラー・エコノミーでコストを削減し、競争力の強化を

サーキュラー・エコノミー(循環経済)とは、消費された資源を回収し、再生や再利用を続けることで経済成長を目指す新しいモデルのこと。資源不足によるリスクを最小化し、環境問題の解決や持続可能なGDPの成長を後押しすると考えられ、こうしたサーキュラー・エコノミーの構築は、ベトナムを含めた多くの国々の共通目標である。

写真㊤=セメント工場からの廃棄物を水槽の人工魚礁の製造に使用

持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD:World Business Council for Sustainable Development)のプレジデント兼CEOのピーター・バッカー氏によると、従来のリニア・エコノミー(線形経済)では、原材料は製品の製造に使われ、使用後は廃棄物として捨てられていたが、サーキュラー・エコノミーでは、廃棄物は再利用のためにリサイクルされ、人々も所有ではなくシェアやリースを目指すようになる。

タイのサイアム・セメント・グループ(SCG)社長兼CEOのルーンロート・ランシヨパット氏は、「ASEANの地域経済は人々の生活向上のために発展を続け、これまで数多くの課題に対応してきたが、世界の製造拠点としては十分な資源がある状況にはない」と指摘する。そして、「サーキュラー・エコノミーモデルが成功すれば、ASEAN諸国において、資源利用の最適化を可能にする最先端の製品・サービスの活用が進み、企業もコストを削減して、競争力が強化されると予想される。また、このモデルは、パリ協定や国連のSDGsに従い、世界のQOL(quality of life)を改善し、二酸化炭素排出量の削減につながると考えられる」と続けた。

さらに、ランシヨパット氏は、「SCGは、ベトナムを含む地域の国々で、サーキュラー・ビジネスモデルの開発を行ってきた」とも述べた。例えば、包装分野では、天然パルプの代わりに古紙を紙製品の原料に利用したり、製紙工場から出る石灰泥は、紙製品の原料を生みだすユーカリ園の肥料として使用している。

また、排熱回収技術(WHR)の導入によって、セメントの生産プロセスにおける排熱を回収し、その排熱を工場の発電タービンの蒸気生成に使用できるようになる。SCG社は、この技術をベトナムや地域の国々にあるすべてのセメント工場に採用することで、エネルギー消費を30%以上抑え、年間6000万ドルのコスト削減に成功した。さらに、この技術は、毎年30万トンの二酸化炭素の排出削減にも寄与している。2030年を見据えた、2020年までのベトナムセメント工業の開発計画では、クリンカー(セメントの材料)の生産量が1日2500トンの生産能力を持つすべてのセメント工場は、電力消費を少なくとも20%削減する排熱回収システムを設置しなければならない。

ベトナム経済においてサーキュラー・ビジネスモデルは、紙や建設資材分野のほか、プラスチック、織物・衣類、皮革、履物、水産物といった業界でも開発が進められている。