ベトナムでは、急速な経済発展や生活水準の向上、そして、消費者の食品安全意識の高まりなど、消費環境が大きく変化し、伝統的な小規模商店や生鮮市場から近代的なスーパーマーケットへと、市民らの買い物の場が移行している。そして、それに伴って増えているのが、海外からの小売販売会社の進出だ。

発展を見せるこの分野への最新の進出事例は、昨年12月に首都ハノイに開業したフジマートだ。日本の大手商社、住友商事とベトナムで小売と不動産業を展開する多角経営企業、BRGグループとのジョイントベンチャー事業だ。

11月半ばには、タイのセントラル・グループが、南西部、メコンデルタ地方のティエンザン省ミトー市に、「GO!ミトー・トレードセンター」を開業した。セントラル・グループは同店に続き、今後5年間で、ベトナムに約5億ドルの投資を注ぎ込み、各地に計500店舗の小売店出店を目指すという。

国内勢も黙って見ているわけではない。国内小売大手のサイゴン・コープはアンザン省に新たなスーパーマーケットを開店させ、国内での出展数を99店まで伸ばした。ほかにも近く「コープ・マート」「コープ・エキストラ」の業態で新店舗を数店新設するほか、「コープ・フード」の店舗も、ハノイやホーチミンといった大都市圏に10店舗程度、開業させる計画だ。

べトナムは小売業の成長に大きな可能性を秘めているといえる。人口は9000万人を超え、そのうち約70%が生産年齢人口に該当し、34%は都市部に住んでいる。一人当たりの年間所得は、2385ドルに達した。

市場規模も年々拡大している。2010年に880億ドル規模だった小売市場は、2015年には約1460億ドルになり、2017年には1700億ドルを超えた。さらに2020年までには1800億ドル規模にまで拡大すると見込まれている。

英国の市場調査会社、ビジネス・モニター・インターナショナル(BMI)によると、いまやベトナムはアジア太平洋地域でももっとも急速に日用品市場が拡大している国のひとつだという。2012~2018年の日用品市場の平均成長率は10%に達しており、今後2022年ごろまで二桁成長を維持すると予想される。

その小売市場の成長を妨げうる課題が、「物流整備の遅れ」だと、小売専門家のブー・ビン・フー氏は指摘する。ベトナムで近代的な物流網が完成されているのは、大都市周辺に限られている。まだ全国の25%程度にしか整備が行き届いておらず、その他の地域は、おおいに成長と整備の余地がある。

フー氏は、「物流にかかる手数料も、(小売市場の)発展を妨げる問題の一つだ」と語る。ベトナムでは、まだ手数料が不当に高く、多くの製造業者が仕入れをあきらめたり、他の業者を選択せざるを得なくなったりする原因となっているのだ。

隣国のタイでは、高品質な商品の安定的供給を確保するために、流通業者と生産者がうまく手を結んだ。その結果、世界的な小売流通会が次々と進出し、国内企業の独自の販売網構築も実現した。このような事例を手本に、大胆な流通の改革と発展ができるかどうかが、今後のベトナムの消費市場拡大のカギとなりそうだ。