“ベトナム産”農産物、ブランド化の課題 

ベトナムは多くの農産物を海外へ輸出しているが、その70~80%はブランドや産地証明を持たず、海外の企業やブランド名のもとで販売されている。これでは生産者や農家、加工会社や輸出業者、ひいてはベトナムの国にとって不利益なばかりか、ベトナムが世界をリードする食品輸出国になることを妨げる要因になりかねないと懸念が広がっている。

◇ブランド知名度の不足
ベトナムは現在、世界第2位のコーヒー輸出国だ。しかし、ベトナムがコーヒーから得る利益は、そのランキングの地位に見合ったものではない。

これには2つの理由がある。1つ目の理由は、ベトナム産のコーヒーの多くが海外企業の商品ブランド名で販売されてしまっているということ。2つ目が、ベトナムのコーヒーの大部分が生豆か加工前の状態で輸出されるため、原材料が「ベトナム産」だと消費者に認知されにくいという理由だ。

コーヒー生豆の平均価格は、1キロ2ドルに届かないが、加工され、ブランド名前がつけられた製品になると、1キロ20ドルにもなる。つまり、ベトナムに入る収入は10%に過ぎず、残りは海外企業の収益となっているのが現状なのだ。

一方で、ベトナムの製品でも、ブランド化に成功し、好調に売り上げを伸ばしている農産物や加工品もある。フーコック島のニョクマム(魚醤)や、タイグエン産の茶葉などは、生産まで国内で行なわれているのが強みだ。

ブランド化競争戦略研究所のアドバイザー委員長を務めるグエン・コック・ティン氏は、ベトナムからの農産物輸出のほとんどが未加工の原材料で、生産や加工を手がける企業についてはおろか、生産地の情報さえつけず輸出されていると問題点を指摘する。「この状態では、農産物に期待されるような付加価値がつくことはないし、リスクすら背負うことになる」。

その一例として、ティン氏が紹介したのがベトナム産の米だ。ベトナムの米をブランド米として輸出するプロジェクトが立ち上がり、すでに100社ほどの企業が参加を表明したというが、このうち1社でも基準に合わない米を輸出することがあれば、ブランドと、参加している全企業が悪影響を被ることになるのだ。

もう一つ、ティン氏が強調するのは、「ブランド化というものが、単なるロゴやイメージ、スローガンにとどまるものではない」ということだ。「ブランド化とは、消費者の信頼や親しみやすさを積み上げていくことだ」とティン氏は主張。農産物輸出の長期的な利益となるように、“ベトナム産”の農産物価値を構築し、守っていくための革新的なアプローチが必要だとした。

ハノイ市商工局のチャン・ティ・フオン・ラン副局長も、「きちんとねらいを定めてブランドを構築する必要がある。それができれば、ベトナム産の農産物の競争力の成長を後押しすることができるだろう」と分析する。

◇企業、行政が協力へ
農業農村開発省傘下の農産物加工・市場開発局によると、ベトナムの社会経済の継続的な発展のために、農産物のブランド化は避けては通れない道だという。しかし、その実現はたやすいものではない。

ベトナムの農業は依然として、昔ながらの手法で、小規模栽培生産されていることが多い。生産地も集約されていない。個々の農家は、市場の需要を把握しておらず、消費者の望むような農業手法での栽培も意識されておらず、農業手法の指導や改善が必要だ。

ベトナムコーヒー大手、ビナカフェ・ビエンホア社は、ベトナム産の農産物の価値向上、とりわけベトナム産コーヒーの価値向上にとって、「バリューチェーンの構築とブランド化が何よりも重要だ」という認識を持つ。その中で、「企業がそれぞれの産地やブランドを育てるだけではなく、産地地域や行政当局、国も加わって進める必要がある作業だ」と指摘する。

これに対して、農業農村開発省も、関係当局との協力や、国内の基準や規制の設置などで協力する姿勢を見せている。同省傘の下にある農産物加工・市場開発局のグエン・コック・トアン局長は、「国内ブランドの開発に力を注ぐ一方で、生産地域に対する産地証明の付与や、商品のトレーサビリティの実現なども推し進めていきたい」と話す。

その具体例が、起草が勧められている生産地証明についての政令だ。工業製品に「made in ~(~産)」や「assembled in~(~で組み立てた)」といった表示があるように、農産物でも、その原材料が栽培された場所を、「product of ~(~産)」と最終商品のラベルに表示することを義務づけるという案だ。例えば、ベトナムで栽培されたコーヒーを原材料とした製品のラベルには、たとえ製品加工が国外で行なわれていたとしても、「product of Vietnam」と表示するというものだ。

これはベトナムの製品を世界各地に紹介し、広告する効果的な手法となる。消費者は、加工やパッケージ詰めなどを行なった場所や企業にはそれほど関心はないが、製品の原材料がどこで栽培されたのかはおおいに気にかける。消費者に直接アピールできる重要な手法になると期待が高まっている。