新規投資を渇望するベトナムの農業分野 中小規模組織の支援、大きな課題

ベトナムの農業分野は、年間400億ドル規模の輸出額を稼ぐようになり、ベトナム経済の重要な要素に成長している。だが、いまだに利益率が低く、大部分を占める中小規模の農業経営には十分な資金投資が呼び込めていないなど、多くの課題を抱えているようだ。

◇中小規模農家の苦戦
農業農村開発省(MARD)傘下にある農業農村開発政策・戦略研究所(IPSARD)のグエン・ドー・アイン・トゥアン所長は、昨今のベトナム農業分野について、「比較的大型のプロジェクトでは投資の誘致が進み、成功事例も多いが、中小規模だと状況は厳しい」と紹介する。例えば、果物の加工の分野などでは、最先端技術を応用した大型加工場などは、新設操業すぐから契約期間が5~10年にも及ぶ受注が入り、企業の安定経営に寄与しているという。だが一方で、従来の中小規模の加工場は、自社製品の新たな受注先の開拓や、新規融資の拡大など、さまざまな面で苦戦を強いられている。

また、ベトナムの農業分野への投資は、「この分野の成長への期待と潜在的な可能性に見合わないほど低く、投資企業も限定的だ」というのが、農業農村開発総評議会のホー・スアン・フン議長の意見だ。

農業分野での投資事例は昨年1年間で過去最高の2200件に達し、投資企業の数を9235社にまで押し上げた。ただ、このうち約5000社は、「単に関連企業であるから投資を行なった」というのが実情だとフン議長は指摘する。

2018年年末、ベトナム商工会議所(VCCI)は、農業分野の572社を含む私企業8000社の調査を行なった。農業分野で対象となった企業のほとんどは中小規模で、全体の58%が「顧客開拓で課題に直面している」と回答した。46%が資本金の調達に困っており、44%が市場の変化への対応に苦慮、33%は「ビジネスパートナーを探すのが難しい」と感じていた。

資金面以外での課題の指摘も多く、「企業内に適切な人材がいない」(29%)、「政策の転換に影響を受けている」(24%)などの悩みも浮き彫りになった。「行政手続きや法的手続きの実行が難しい」と答えた企業も全体の18%に及んだが、このうち68%は土地にまつわる行政手続きが課題だと考えていた。さらに、54%が銀行ローンを活用していたが、企業規模が小さいほど、銀行からの融資を得るのが難しいことが調査でわかった。

養豚業を営むフンズン・インーナショナル社のグエン・ティ・アイン・ダオ社長は、ハイテク技術を応用して血統書付きの豚500頭と食肉用の豚1000頭が飼育できる特殊な養豚場と、年間生産量約3トンのターメリック製造工場を始めるために、銀行の民間ローンから資金を借り入れ、住宅地だった土地を、高い価格で個人所有者から購入しなければならなかった。「これは、新設企業には返済が厳しい条件や金額だ」とダオ社長は指摘する。

政府は、フンズン社のような企業に、借入金の返済支援政策を展開しているが、「制度には課題が多い」とダオ社長は言う。そもそも、ベトナムでは土地の多くを公的組織が管理するほか、一般家庭に住宅地としての管理が割り当てられており、家畜の集中飼育ができるような余剰地はほとんど存在しない。「私たちのような農業関連の業種が生産を拡大したり、長期的な戦略を立てたりするのはとても難しい状況だと感じる。農業生産企業が市場を拡大したり、販売促進やブランディングなどのマーケティングを成功させたりするには、政府の支援が不可欠ではないか」とダオ社長は言う。

◇農業の経営環境改善へ
種苗販売などを展開するビナシード社(ハノイ)のチャン・キム・リエン社長は「企業が土地を計画的に事前確保しておけるような法的特例が必要ではないか」と考える。「ベトナムの農業ビジネスを再構築するには、企業が国内外の販売促進プログラムに参加し、海外市場の需要動向の予測などを入手できるような環境整備も必要だ」。

ベトナム商工会議所のダウ・アイン・チュアン法務局長は、「農業分野への投資を誘致するためにもっとも重要なのは、構造的な障壁やハードルとなっている政策の撤廃だ」と断言する。ベトナム国会は、多くの農業政策を撤廃する「2017年度計画」を採択しているが、そのおかげで、従来の形式ばった、時代遅れの計画提示がなくなり、農業農村開発省が農家に、定期的に最新情報を提供できるようになったという。

また企業の経営や投資の条件なども簡略化され、事業を運営する権利が拡大、分野も多岐に広がった。企業の適正運営を監視する必要があるものの、農水産業への投資を誘致するためには、企業経営者の権利を保護する政策が重要だ。

国会議員のチャン・ホアン・ガン氏(ホーチミン市)は、農業分野に対する海外投資の乏しさも指摘し、「農業分野に海外からの投資を誘致するための促進政策が重要だ。また、物流に起因する農業分野の停滞も、緩和する必要がある」と提案する。

農業農村開発省、企業発展局のグエン・ホア・クオン副局長は、同省がこのほど、農業分野への投資手続きを簡素化する政令を発効させたと説明。8万~10万社が農業分野に新規投資を行なうことを目標としており、このうち3000~4000件を大規模プロジェクト、6000~8000件を中小規模のプロジェクトに割り振りたい考えだ。