ベトナムのアパレル業界、新技術や省エネで成長加速 「アジアの縫製工場」目指す

ベトナムは今日、繊維や衣類の輸出国で世界トップ10に入る。同分野の輸出額は300億ドルを超え、ベトナムの経済に大きく寄与している。だが、温室効果ガスの排出の多さや排水による水質汚染など、業界の負の側面もこれまでは小さくなかった。それを払拭し、さらなる成長を後押ししようと、設備投資や新技術の導入に踏み切る企業が増え、それを後押しする組織や銀行なども増えている。

◇革新的な技術投入へ
27歳月のファン・チー・カオさんは、ベトナムの繊維加工大手、「フォン・フー・インターナショナル(PPJ)」の縫製工場で、日常業務に就く。だが、彼の仕事内容は、私たちが想像する、いわゆる縫製の仕事とはまったく違う。彼が働くのはレーザー部門。レーザーを使い、デニム素材に、若者たちが好む色褪せた風合いやダメージ加工などを加える、「乾燥加工」と呼ばれる工程だ。このレーザーを使えば、カオは1日約300枚ものジーンズを加工することができる=写真㊦。従来は、職人の手加工に頼っていた工程だ。危険な薬物を取り扱わなければならない重労働で、かつては1日20~30枚仕上げるのがせいぜいだったという。

カオさんが勤めるフォン・フー・インターナショナル(PPJ)は、「アジアの縫製工場」として台頭を表し始めたベトナムを後押ししようと、このレーザー加工機を導入した。2016年に、この試みは、本部をアメリカに置く世界銀行グループの国際金融公社(IFC)主導でベトナムのアパレル・繊維業や靴製造業界などの効率化を目指して進められた「ベトナム改善プログラム」によって加速した。

IFCは同社が新しい技術や製造手法などを採用するのを支援した。このような試みはPPJがより多くの受注をもたらしただけではなく、省エネにもなった。年間の使用電力は700万キロワットも圧縮、水の使用量も20万立方メートルの減らせたことで、70万ドルもの経費が節減でき、労働者らを他社に転職させないですむ十分な給料を払うことができたという。

◇業務効率化のためにすべきこと
ベトナム改革プログラムに参加したことで、PPJはこのような成果を得ることができた。最初に同社が行ったのは、効率が悪かった自社ボイラーを高性能機に買い替えたことだった。また、濯機をオゾン洗浄の機械に置き換え、従来は廃棄していた水の80%をリサイクル利用することによって、水道料金が大幅に減った。資源利用の効率化と生産性向上のために、PPJはさらに、職人の手作業で行われていたレーザー加工部門に機械を導入したのだった。

PPJのグエン・チー・リエン副社長は、「効率アップと生産性の向上によって、世界基準に適合する製品を製造、納品できるメーカーを探していたアパレル小売販売店から注文が来るようになり、新規の取引先が増えた」と話す。一方、カオは「400ドルの月給がもらえるので、両親の医療費や妹の教育費を賄うことができる」と喜ぶ。

同社は2018年を通じて、各地の製造設備への投資を続けた結果、生産性は30%向上する一方で、経費は20%減少。2018年の売上高は前年度より3割アップして3億ドルに達した。同社は来年、アジアのどこかに、高度にオートメーション化された衣類縫製工場を開設する計画だという。

◇重要テーマは「省エネ」
ベトナムは今日、繊維や衣類の輸出国で世界トップ10に入る。同分野の輸出額は300億ドルを超え、ベトナムの経済に大きく寄与している。

しかし、一方では、化学薬品の使用などによって、水を汚染したり水質を劣化させたりする例が2番目に多い産業分野であるという負の側面もある。エネルギー消費の面でも、ベトナムの繊維・アパレル分野は、世界各国と比べるとエネルギー効率が悪く、国内の全産業が使用するエネルギーの実に10分の1を使っているのだという。IFCのベトナム改善プログラムでは、これらの視点に着目しながら、ベトナム民間企業の持続可能な発展を促してきた。

2016年に始まったプログラムでは、70カ所の工場で省エネ措置のために2600万ドルが投入され、水やエネルギー、化学薬品などの使用経費を2400万ドル節減できるようになった。今後3年間で、まだ計画途中の改造やより効率のよい設備導入などのプログラム(約4000万ドル相当)がすべて実現すれば、全体で400万立方メートルの水を節減できるようになる。温室効果ガスも、78万8500トンの排出が抑えられるが、これは、走行する車を100万台減らすのと同じ効果がある。新技術の採用と、効率化によって、国全体のエネルギー消費量が30%削減できると試算されている。

◇資金調達を容易に
PPJのような成果は、他社にもより効果的な経営を促すきっかけとなっている。IFCと関連のある顧客銀行も特別融資の実施や優遇措置などで、活動支援を始めている。例えば、IFCの提案によって、サミル・ビナ社は、水やエネルギーを節減できる高度な染色用機器を導入した同社は、ベトナム商工銀行(VietinBank)の省エネ措置を対象とした優遇借り入れプログラムで、約400万ドルの銀行ローンを借り入れることができた。

設備の改善を行った効果はすぐに表れた。新型の染色機は同社の水や化学染料の利用、エネルギー消費を全体で45%カットし、製品完成までの時間も17%短縮できた。

この措置によって、同社の経費は約200万ドル圧縮され、導入からわずか1年で、抱えている労働者らに賃金の60%引き上げで還元できるほどの効果があった。さらに、6000万ドルを投じて繊維加工工場を新設する計画で、2020年に操業を始めれば、新たに2000人の雇用を創出できるとしている。

サミル・ビナ社のI.B.パク社長は、「IFCのプログラムによって私たちは、工場をむやみに新設して生産を拡大しなくても、生産は倍増することができるのだと気づかせてくれた。今や、サミル・ビナ社はベトナムでももっとも生産性の高い繊維加工会社のひとつだが、そうなった秘訣は間違いなく『省エネ』だと言える」と断言している。