新型コロナウイルス(Covid-19)による肺炎拡大を抑制するため、テト(旧正月)の休暇後、多くの中国人労働者らが、ベトナムに戻ることができない状態が続き、企業の生産活動が大きな打撃を受けている。経済は厳しい状況ではあるが、一方で、世界の企業がリスク分散のために中国以外の生産拠点を探す傾向が加速するとみられ、中長期的には、外国資本投資(FDI)が前年の5%増となる見込みだという。ベトナム投資開発銀行(BIDV)がこのほど発表した。

◇懸念される生産の停滞
ベトナム投資開発銀の人材育成・研究開発チームによると、ベトナムと世界の経済にコロナウイルスが与える影響調査では、「新型肺炎は新たな挑戦をベトナムに強いることになったが、一方で、新たな投資機会を提供することにもなる」との見方を示した。

現在、中国のベトナムへの外国直接投資(FDI)は世界第7位。約163億ドルの資本が登録され、2875件のプロジェクトが進展中だ。これは、ベトナムの外国直接投資の4.4%を占める。

多くのプロジェクトでは、生産の様々な段階や、企業の運営において、中国人専門家や労働者がかかわっている。レポートでは、新型コロナウイルスの拡大防止のため、これらの多くの中国人がベトナムに戻ることができなくなり、プロジェクトの進展や企業活動に大きな影響を与えていると指摘した。また、これらの企業で働いたり、かかわったりするベトナム人労働者らの収入や生活にも影を落としているとした。

計画投資省がまとめた新型コロナウイルスのベトナム経済への影響分析でも、「短期的・長期的にベトナムの投資は減少する」とされ、特に海外からの資本流入と、民間企業の投資が激減すると予測された。

ベトナムで営業する多くの外国資本企業も、自社の生産や企業活動に及ぼす新型肺炎の影響に懸念を示している。韓国のサムスンやLG、台湾のフォルモサ、米国のアップル社や日本のトヨタ、ホンダといった自動車メーカーなども、中国からの輸入停滞により原材料調達の課題に直面している。中国国内での移動制限やベトナムでの中国人の入国制限などにより、労働力が不足しているとの悲鳴も聞こえる。例えば、LG社では、「今後2週間で新型肺炎の感染がさらに拡大すれば、生産用原材料が不足する事態となるだろう」と話す。

フォルモサは、中国からの鉄鋼の輸入が止まったために、生産販売に遅れが生じていることを認めた。また、アップル社も、部品のOEM生産を受託するサムスンやフォックスコン、LGなどの生産停滞のため、ベトナムからの輸出を前年比30%増にするとしていた2020年目標に影響が出そうだという。

◇FDIに期待は持てる?
一方で、生産や投資への直接的な影響はあるものの、「今回のことが、投資先を求める世界の企業各社に、中国や香港、マカオ以外の投資先を探すことを促す契機となる」として、BIDVの調査チームは、明るい見通しを示した。

ベトナムは新型コロナウイルスの感染予防体制が脆弱だと言われていたが、実際のベトナムの肺炎まん延防止策は成果を上げており、結果は前向きに受け止められている。また、ビジネス環境改善に力を入れるベトナム政府の姿勢も評価されている。レポートでは、新型コロナウイルスの世界的拡大で、経済成長率そのものは前年と比べ減少が予想されるものの、「ベトナムへのFDIは前年比約5%成長すると見込まれる」と、前向きな評価がなされている。