医療用マスク輸出、業界団体が「品質と安全性の確保」呼び掛け EUなど承認必要な輸出先も

新型コロナウイルスの感染拡大のなかで、大きな打撃を受けたベトナムの衣料縫製や繊維分野の企業がいま、医療用マスクや布マスクなどの製造と輸出に、必死に生き残りの道を模索している。一見有望な市場だが、企業が今後も継続的に輸出を拡大し続けるには、輸出先の市場が求める品質と安全性などの要件を満たし、証明書を取得しなければならないなど、ハードルも高いようだ。

衣料縫製を含むベトナムの繊維業界は、今回の新型コロナの流行によって製造ラインが止まるなど、大きな打撃を受けた。ベトナム商工省傘下の海外貿易局のチャン・タイン・ハイ副局長によると、これらの業種では、今後の事業を継続し、雇用を維持するために、生産製品の転換などを迫られている例が少なくないという。

そこに政府が、数量制限なしで、マスクの輸出を認可する「法令60/NQ-CP号」を発令したことが、これらの企業に新たな挑戦の機会を与えることになった。

だが、ハイ副局長は、マスクの製造輸出に当たっては、輸出先の国や地域がそれぞれに、異なる品質基準を定めていることが、大きな課題となっていると話す。

例えば、欧州への輸出のためには欧州連合(EU)独自の安全認証である「CEマーク」取得が、また、米国向けの医療用品輸出では米国食品医薬品局(FDA)への届け出と承認が、それぞれ義務付けられている。これらの承認などは、メーカーが事前に製品を評価し、安全や健康、環境保護の面で必要な要件を満たしていることを証明するものだ。

ベトナム認証センター(Quacert)の専門家であるディン・ゴック・ロン氏は、「ベトナムの企業は、欧州などが提示する要件をきちんと理解し、自社製品がCEマークを取得するために、すべての必須要件を満たしていることを確認する必要がある」と話す。

また、同僚で米国向けの承認を取り扱うチャン・アイン・トゥアン氏も、「米国向けのマスク輸出にあたっては、FDAから事前の要求がなくても、自社製品の安全性などを示す必要書類を用意しておく必要がある」と指摘。FDAによる安全性と効能の調査を受け、当局の承認を受けていることが、輸入の前提条件だからだ。

世界的な感染拡大で、世界各地でマスクが供給不足となっており、当面は輸入国も、製造企業や国に厳しい要求を免除するケースも考えられる。だが、同センターでは、ベトナムの業界と製造企業に対して、「競争力の強化と長期的な輸出促進を考え、特に米国や欧州などの厳しい市場への進出を視野に入れているのであれば、事業着手の時点から、十分に準備をしておくべきだ」とアドバイスしている。いずれ感染が落ち着けば必ず、これらの地域では、認証の獲得が輸出の前提条件となるからだ。

ベトナム繊維アパレル協会のチュオン・バン・カム副会長も、「ベトナムは現状でも、マスクの大量生産が可能だ」としながらも、「業界が輸出増加を実現し、長期的な関係を構築するには、輸出先が課す輸入条件となる承認を得ることが不可欠だ」と長期的な事業計画を促している。