海外企業がベトナム小売市場への参入模索 EVFTAなど追い風に

1800億ドル規模を誇り、毎年2桁の成長率を誇るベトナム小売市場の好調ぶりに注目し、投資や市場参入を目指す海外企業が増えている。

英国領バージン諸島の投資信託会社、アリセイグ・アジア・コンシューマー・ファンド(Arisaig Asia Consumer Fund)はこのほど、サイゴンビール・アルコール飲料(Sabeco)などのベトナム企業三社に対する新規投資の実施を発表した。投資の詳細については明らかにされていない。

同ファンドは、1996年に設立された小売業専門の投資ファンド、アリセイグ・パートナーズのグループ企業で、ベトナムへの投資は総額約40億ドル規模にのぼる。アジアの生活必需品や技術関連分野への投資を重要視しており、全投資額の3%にあたる7500万ドルをベトナム株に投資している。

同ファンドは昨年末以降、モバイルワールド・インベストメント社の所有株を少しずつ買い増ししてきたほか、ベトナムの乳業最大手、ビナミルク株2880万株(約株価3兆3000億ドン相当)も保有している。

アリセイグのほかにも、ベトナムの小売市場向けの投資の好機をねらう企業や投資ファンドは少なくない。それを実行に移し、成功した実例でいえば、未公開株式投資会社のメコンキャピタルが運営する「メコン企業ファンドⅢ」が、質屋「F88」に投資し、全国チェーンへと発展させた例などがある。

メコン企業ファンドは、外食チェーン大手の「ゴールデンゲイト」、テーゾイジードン投資(家電量販のモバイルワールド=MWG)、医薬品小売大手のファーマシティ(Pharmacity)などに投資を行ってきた。また、トゥンドラ・ベトナム・ファンドは、東南アジア最大手のベトナムのICT企業、FPTをはじめとするIT関連企業への投資を行ってきた。FPT株は同社の中でも最も多く、同社の投資の約8.6%を占める。

ベトナム・ホールディングスの投資実績を見ると、こちらもFPT株がもっとも多く、全体の24%。これ以外の投資先としては、工業製品やサービス業が投資全体の20%、不動産17%、通信12%、銀行9%と続く。同社は、投資ベトナム企業株への投資は今後も増える傾向にあるといい、「今後5年間に、小売業界向けの投資が大きく成長するだろう」と見ている。

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ベトナム統計総局の調べによると、昨年の小売業全体の売上高は3700兆ドン(約1617億ドル)にのぼり、2018年と比較すると189億ドルの増加があった(前年比12.7%増)。小売業界は右肩上がりの成長を続けているだけでなく、その成長率は4年連続で10%増を維持している。今年の売上高は1800億ドルに達すると見込まれていた。

成長を続ける商工省傘下にある国内市場局のチャン・ズイ・ドン局長は、今年8月に発効する欧州連合(EU)とベトナム間の自由貿易協定(FVFTA)がもたらす好機を生かすよう、関係者らに促している。「国内企業は、協定の内容や関連規則を事前に注意深く検討すべきで、発効により生まれるチャンスを生かす準備を整えておくべきだ」と警告。国内外の市場に照らして企業の戦略管理や構造を強化し、多様化し、増加する消費者ニーズに対応できるような体制を整えておく必要があると指摘した。

ベトナム商工会議所のWTO統合センターで局長を務めるグエン・ティー・トゥ・チャン氏は、EVFTAで欧州の小売業者に対し、これまで複数の店舗出店計画などがある場合の許認可に必須とされていた事前の経済的ニーズ考査(Economic Needs Test)を義務化しないことを約束。これで欧州の投資家がベトナムで小売事業を展開したり、拡大したりする機会が得やすくなりそうだ。

経済的ニーズ考査は、これまで、ベトナム製製品やベトナムに輸入されたすべての製品の小売り、卸売り、委託販売などの流通部門を担う外資系企業が、ベトナム国内で小売店などを設立する際に満たす必要があるとされて来た条件で、外資企業の市場進出のネックとなってきた。