ホーチミン市、産学連携や起業支援を積極展開 革新的な「イノベーション・エコシステム」の構築目指す

ホーチミン市は、既存の企業や新規の事業立ち上げ、研究機関、行政や団体など多様な存在が競争、協力する経済活動を生態系にたとえた「イノベーション・エコシステム」の構築を目指している。4カ年計画の促進プロジェクトの最終年度となる今年、同市は、産学連携や海外との協力模索などを積極展開し、ベトナムの革新的な事業展開を世界的にアピールしたい考えだ。

この一環として、ホーチミン市科学技術局が力を入れるのは産学連携の分野だ。科学技術の関連団体や大学、企業との協力で、製品の品質向上につながる技術革新を推進させている。企業や大学、研究機関などの間をつなぎ、科学的研究や知識、技術などの相互移転を促す活動は、すでにさまざまな製品の商品化につながっている。

例えば、ベトナム国立大学ホーチミン市校は、ホーチミンにあるベトナム伝統医療を研究する企業、ナチュラル薬化学社や、バオタック薬学機器社と協力。傷口の治癒効果がある生物由来のフィルムや、ハチの毒を注射して行う関節炎治療などの研究開発に取り組んでいる。また、ホーチミン市工科大学は、ビビカ社、オルガライフ食品化学社などの地元企業と提携し、糖尿病患者向けの治療食や、赤ちゃんの離乳食などを開発してきた。

市が企画した革新的な起業支援エコシステムは、40の起業支援団体が行政と連携したもので、134の研究機関、626人の専門家、275の科学技術センターの間で情報が共有できるプラットフォームがこのほど創設された。

ホーチミン市はまた、起業家が活用できる空間5カ所を開設したほか、市内に24のインキュベーション(孵化)センターを誘致。情報技術▽機械工学▽食品加工▽プラスチック・ゴム・科学素材開発―の4部門に重点を置き、起業支援システム運営委員会を設置して支援を展開していく。このおかげで、650近い企業への資金供与が実現し、孵化機関などを活用して、自社アイデアを商品化することができたという。

これまでにホーチミン市では、企業効率や管理、革新的な開発などの分野で同市が企画した研修を、市内の3142社が受講し、759社が自社製品の品質向上についてのコンサルティングを受けた。さらに、技術や製品をブラッシュアップするための81の研究プロジェクが採択されたのに加えて、15件は投資促進プログラムの支援対象とされ事業家の資金援助にもこぎつけた。

ホーチミン市科学技術局のグエン・カック・タイン副局長によると、同局は「2021~2025年にかけて、革新的起業の支援促進プログラムの完成を目指す」という。さまざまなインフラ整備や支援サービスの改善に焦点を当て、ホーチミン市の主要産業分野での起業支援▽企業の研究成果の商品化を加速▽中小企業の生産効率や品質、創造性の向上などの支援▽公共分野の改革促進―などを展開していく考えだ。

企業に改革革新を促すことができれば、質的な成長を示す「全要素生産性(TFP)」の数値を引き上げられる。これによって、ホーチミン市とその郊外を含めた都市圏の総生産額である「域内総生産 (GDRP)」を、「年率40%増加に引き上げられる」(タイン副局長)と期待されている。

海外との結びつきという点でもホーチミン市は積極的に活動を進めており、ニュージーランド総領事館と提携して企業設立時のエコシステムデザインに関する研修を企画している。また、イスラエルの改革当局(IIA)とも連携し、2018~2021年にかけて、革新的な起業の設立活動を加速させる。さらに韓国の世界韓人貿易経済協会(World-OKTA)や、技術移転を企画している釜山市技術管理センターとも協力し合っている。

起業支援組織のひとつ、サイゴン・イノベーティブ・ハブ(SIHUB)は、情報や技術などの資源を共有し、結びつける活動を展開した、ベトナム初の公的な起業支援組織だ。ヒュイン・キム・トゥオック局長によると、2016年から3年間で、同団体は商品のブラッシュアップや起業・商品化の支援、企業戦略の確立、市場への橋渡しなど2230件を展開してきたという。現在ではベトナム-フィンランド革新的パートナーシッププログラム(VFIPP)やベトナム-シリコンバレー起業加速プログラムなど、海外の起業・事業化支援の枠組みに加わっており、貴重な経験を獲得し、先進国とのコラボレーション企画などへの参加を積極的に模索しているという。

世界知的所有権機関(WIPO)が発表する「グローバル・イノベーション・インデックス(GII)2019年度版」で、ベトナムは2016年ト比べ17位も順位を上げ、129カ国中42位にまで躍進した。ASEAN諸国の中では第3位で、中低所得国の中では、最も高い順位となった。