ハノイ郊外のバッチャン村で作られる陶器は、ベトナムの伝統工芸品のひとつだが、製造現場では、伝統手法に固執することなく、薪や石炭の窯を最新のガスや電気の炉への置き換えが進んでいる。積極的な新技術導入で、環境汚染が削減されただけでなく、生産性も飛躍的に改善。自然にやさしい持続可能な地域工芸の実例として、注目が高まっている。

◇石炭窯との決別
ハノイ市郊外のジャラム県バッチャンにあるバッチャン陶芸村は、首都からのアクセスもよく、国内外の観光客に人気のスポットだ。だが、バッチャン陶芸村代表委員会のハー・ヴァン・ラム委員長によると、最近、村が注目を集めているのは、生産される美しい多様な陶磁器と伝統文化の側面だけではなく、「自然にやさしく、環境を汚さない生産手法の工夫」なのだという。

かつてのバッチャン村は、薪や石炭を使って陶器を焼く行程で毒性の高い煙とホコリが発生し、大気が汚染され、村人の健康も損なわれていた。転機となったのは1990年代で、製品の70%が海外輸出されるようになり、主要輸出先のひとつであった日本の取引先の、デザインや製品の安定性などの細かな注文に応えようとしたことだった。それらを実現するために、日本の専門家らが1立方メートルのガスの焼き窯をバッチャン村に寄贈したところ、生産性が大幅に向上し、仕上がりも安定。それを見て村では積極的にガス炉導入を進めるようになった。ラム委員長によると、2007年までには村のすべての石炭炉が、ガス炉に置き換えられたという。

ガス炉の利用は今では、近隣のキムラン、ダートンなどの村にも広がっているほか、さらには省を越えて、ビンズオン省の有名なソンベ焼きの産地や、ハイズオン省、タイビン省、ドンナイ省でも取り入れられるようになった。石炭窯からガスの炉への転換が製品の品質を向上させ、環境汚染を抑制するのを見て、村では伝統に固執することをやめ、成型手法の改善や、原材料に加える化学物質の工夫など、さまざまな側面から新技術の導入に積極的になった。「このことも、バッチャン陶芸村の良質な製品づくりを実現した一因だ」と、ラム委員長はいう。

◇電気炉や太陽光導入 新たな技術活用へ
技術導入は進んだものの、バッチャン村での陶芸は、今のところまだ、受け継がれてきた職人の技術と経験に頼るところが大きい。そのため、肝となる火入れの繊細な技術を身に着けるための長期の職業技術訓練が不可欠だ。

そこで、バッチャン村では、熟練職人でなくても扱いや温度管理の容易な電気炉の導入も始めている。特殊な色の融液を使う製品の製造などには、電気炉は不向きだが、低温で焼くタイプの陶器や、短時間で仕上げたい観光客向けの製品製造などには、経済的利点が大きいという。

さらに、効率よく太陽光で自然乾燥させる手法を開拓したり、太陽光発電で1200度以下の低温炉を稼働させたりする試みも始まり、少しずつだが、液化ガスを利用する炉の代替も行われている。これらは、全体的な生産コストを引き下げ、環境負荷にならないというメリットがある。

エネルギーを効率よく使い、生産性を向上させるために、バッチャン陶芸村の職人らが次に計画しているのは、トンネル型の炉の建設だ。エネルギー利用を30%も減らすことができ、その他の生産費用の削減にもつながるという。

だが、導入によって、自然豊かな生活環境と持続可能な生産を生み出し、新たな陶器焼成技術への投資を実現させるには、より大規模な公的支援策などが必要となる。バッチャン陶芸村のラム委員長は、ハード面の整備と並行して、芸術家からデザインや魅力のある製品作りのアイデアを吸収したり、化学者など異分野からも品質向上や価格引き下げなどにつながる技術供与を得たりしたいと考えている。