農林水産分野輸出、62億ドルの黒字 1~8月、コメ・材木が堅調

ベトナム農業農村開発省は、2020年1~8月の農林水産物の貿易収支が約62億ドルの黒字になったと発表した。黒字幅は昨年同期比で4.9%増だった。8カ月間の農産物輸出総額は261億5000万ドル(同0.9%減)だった。

◇コメと木材がけん引
主要農産物の8カ月間の輸出額は計120億ドル(前年同期比3.2%減)だった。品目別にみると、畜産は2億5000万ドル(同25%減)、魚介類は52億ドル(同5.3%減)だった。材木輸出は前年同期比10.3%増と大きな伸びを見せ、78憶ドルに達した。

同時期の農産物輸入は、199億ドルと前年同期と比べ2.5%増えた。

新型コロナウイルスの打撃にもかかわらず、主要市場への輸出が促進されたことで、黒字を達成した。

この期間の農産物輸出をけん引した作物の一つとして、農業農村開発省、農産物加工・市場開発局のグエン・コック・トアン局長は、コメに注目する。輸出総量の減少にもかかわらず、コメの輸出金額は前年と比べ10.4%増と大きく成長し、総額22億ドルに達した。これは輸出価格の上昇によるもので、1トン当たりの平均価格は488ドルになった。

具体例を見ると、8月下旬、チュンアン・ハイテク農業社(本社:カントー省)は、欧州連合(EU)とベトナム間に締結された自由貿易協定(EVFTA)の発効(8月1日)以後、初となるコメの輸出を果たした。同社は欧州向けに、インディカ米の中でも特に高級品種2種を、計3000トン輸出する契約を締結しており、「ST20」と呼ばれる品種では1トン当たり1000ドル、「香り米」ともよばれるジャスミンライスは、1トン当たり600ドルの値を付けた。EVFTAの関税撤廃のもとで、ベトナム産のコメが高価格で高級品市場への算入を果たす公算が大きいことの証明となった。

一方で、もう一つの主力品目であった材木は、8カ月間の輸出が78億ドルで、9.3%増加した。過去2カ月間の世界の材木貿易をみると、中国やドイツ、イタリアからの材木輸出が新型コロナなどの影響で停滞したのに対し、ベトナムからの輸出は継続されたことが好調の大きな理由だと商工省は分析している。

米中の貿易摩擦の深刻化は、米国の輸入企業が、ベトナムをはじめとする中国以外の農産物供給地へと目を向けるきっかけとなった。ベトナム企業が積極的にオンラインで市場開拓活動を展開したことも奏功し、ベトナムは注目を浴びることとなった。

コメや材木以外にも、生鮮野菜、キャッサバ芋、エビなどの輸出も好調だった。1~8月のそれぞれの輸出額は、野菜が4億8700万ドル(前年同期比12.8%増)、キャッサバ芋1億800万ドル(同95%増)、エビが24億ドル(同11.4%増)だった

国・地域別にみると、ベトナム産農産物の最大の輸出先は輸出全体の24.13%を占めた米国。輸出総額は63億ドル(同14.2%増)に達した。第2位は全体の24%を占めた中国だったが、こちらは輸出額が前年同期と比べ10.1%落ち込んでの62億8000万ドルだった。

EUへの輸出は前年同期比2.2%減の25億ドル、ASEANへは22億4000万ドル(同11.4%減)、日本へは22億ドル(同1.8%減)だった。

◇需要供給の変化を注視
輸出活動を支援し、さまざまな困難を早期に排除するために、ベトナム政府と各省庁は、各国が新たに適用した輸入規制などについて情報発信を行っている。特に重要な貿易相手国である中国の規制変更や需要の変動については注視しており、ベトナム企業が臨機応変に生産を増減させたり、路線を変更したりできるよう支援するとともに、輸出が難しい事態となった場合には、国内消費を増大させる準備もしている。

さらに、各省庁の実務部隊は、技術障壁を乗り越え、中国やEUのほか、カザフスタン・ベラルーシ・ロシアでつくるユーラシア経済連合(EEU)、米国やブラジルなどの国や地域への輸出で、市場拡大にむけて粘り強い交渉を続けた。新型コロナの収束後にも備え、中国やブラジル、ロシア、日本、オーストラリアを対象に具体的な貿易計画を練ることも重要視している。

農業農村開発省は引き続き、注意深く市場動向を監視。新型コロナの影響を受けている市場で、豚肉、コメ、野菜や果物といった主要生産物の価格や需要、供給に変化があれば迅速に報告し、中国との間で実施される国境貿易の様子を緻密に観測する。

魚介類の輸出では、主軸となるクルマエビ、バナメイエビや、現地で「チャー」と呼ばれる淡水ナマズの輸出を増やす意向だ。特に経済価値の高い品種の輸出増加を目指し、商業価値を上昇させるとともに、持続可能な貿易の発展を目指す。

8月に自由貿易協定が発効したEUとの間では、EU欧州委員会がベトナムに対して発令した違法漁業に対する警告(イエローカード)の解除に向け、農業農村開発省が持続可能な具体的な漁業展開や製品の生産加工を指示するなど、輸出回復に向けた措置をとっていくとした。