EVFTA発効、サプライチェーン参入への期待と課題

EUとベトナムの間で発効されたEUベトナム自由貿易協定(EVFTA)は、安全で持続可能なサプライチェーンの構築を可能にするとされている。

■輸出機会を提供
8月1日に発効したEVFTAは、貿易・投資の促進、新しいサプライチェーン形成の面で、ベトナムにチャンスをもたらすと期待されている。メキシコを長く供給市場としている米国とは異なり、EUは新たなサプライチェーンとなりうる経済圏が近隣に存在しない。商工省多国間貿易政策局のルオン・ホアン・タイ局長は、「ASEAN地域でEUとFTAを締結した最初の開発途上国の1つとして、ベトナムには新たなサプライチェーンの形成に適した環境がある」と述べる。

EUは、デザインや製造、マーケティング、流通、リサイクルなどの分野で、グローバルなバリューチェーンの一部を担っており、ベトナムでグローバルなサプライチェーンを構築する原動力となっている。とりわけEUとは、テクノロジー、データ、情報源、技能、海外投資家とのネットワークなどの面で、グローバルなバリューチェーンの利点を共有できる可能性があり、ベトナムに新たなサプライチェーンを構築する機会を提供する。

新型コロナウイルスは世界的なサプライチェーンを寸断させたため、今、世界の多くの国々が安全で持続可能な新たなサプライチェーンを探している。ベトナム商工会議所のヴー・ティエン・ロック会頭は、「この点でEVFTAは、ベトナムとEUにとって重要な基盤となる」と指摘した。

EVFTAは、繊維・衣料品、革靴、水産品を扱う企業が、EUに製品を輸出する機会を提供する。商工省対外貿易庁によると、認可機関は、履物、水産品、プラスチック・プラスチック製品、コーヒー、繊維・衣料品、カバン、スーツケース、青果物、籐・竹製品など、総額2億2700万ドル(約237億円)相当のEUへの輸出品に対し、7200件の原産地証明書を発行した。輸入する側は、海港や流通センターを持つベルギー、ドイツ、オランダ、フランスといった国々だ。

■求められる適切な政策
EVFTAによってバリューチェーンに参入するチャンスがある一方で、ベトナム企業は今、多くの課題を抱えている。ベトナムの裾野産業は依然、未発達であり、グローバルなバリューチェーンに参入するベトナム企業はごくわずかだ。

例えば、日本貿易振興機構(JETRO)の調査によると、ベトナムの日系企業が、ベトナム企業から購入する商品・サービスの割合は約32.4%にとどまっている。中国の日系企業の現地企業からの調達率が67.8%、タイでは57.1%、インドネシアでは40.5%であるのに対し、ベトナムは低い値だ。

ベトナムの製造業の年間の平均売上高は、わずか290万ドル(約3億円)であり、企業がEU市場に参入するためには、最低でも500万ドル(約5億2000万円)の売上高が必要だ。

多国間貿易政策局のゴー・チュン・カイン副局長は、「専門家は、多くのベトナム企業はバリューチェーンの最下層に参入することで満足し、グローバルなバリューチェーンに入るために、大きな投資を行おうとはしていないと警告している」と述べる。

また一方で、ベトナム裾野産業協会のチュオン・ティ・チー・ビン副会長は、「企業の努力に加えて、政府もより透明性のあるビジネス環境を構築すべきだ」と指摘する。

EUのジョルジオ・アリベルティ駐ベトナム大使は、「EUの投資家の懸念を和らげるためには、政策調整は、EUの規定に沿ったものでなければならない。政策の明確化と調整は、ベトナムがグローバルなバリューチェーンに参入するための最良の方法だ」と述べた。