農業分野へのFDI誘致に高まる期待

農産物はいまやベトナムの重要な輸出品に成長している。にもかかわらず、ベトナムの農業分野への外国直接投資(FDI)はまだ少ない数字にとどまっている。ベトナムへのFDI案件のうち、農業関連の投資件数は全体の1.61%、金額ではわずか0.97%に過ぎない。海外資本を呼び込むために、優遇措置やPR展開など、明瞭な政策が必要だとの声が上がっている。

◇不安定な農業分野のFDI
農業農村開発政策院(IPSARD)傘下の農業農村発展情報センター(AGROINFO)によると、2019年の下半期には、ベトナムの農業分野へのFDIは35億ドル、ベトナムへの全FDIの0.97%だった。同時期の世界的な農業分野へのFDIは全体の約3%で、それと比べると低い数字であったことがわかる。

国・地域別にみると、この分野へ最も投資しているのは台湾、英領バージン諸島、シンガポール、タイで、全体の50%を越えている。

農業農村発展情報センターのグエン・チー・ホン・タイン氏は、「農業分野への外国直接投資は少なく、不安定で、好条件のそろった省や市に集中しており、その秘めた成長の可能性に見合わない」と指摘する。投資の多様性もなく、農業栽培、畜産、林業、養殖漁業と農産物の生産と加工の分野に限られている。

一方で、ベトナムの農業生産品を改良し、付加価値を与えるような技術移転や新たな生産モデルを実現させたFDIの事例もある。FDIによって雇用も増え、農村部のインフラ整備も進み、世界のバリューチェーンとの直接取引への道も開けたことも否めない。

だが、ここにきて、安定した資材供給源を実現するための土地取得の難しさや、限定的な物流面でのサービスとインフラ整備などによって、外国投資の増大が妨げられている現状が浮き彫りになってきた。

◇地元企業との連携を
計画投資省外国投資局、南部地方投資促進センターのブー・スアン・ダン副所長は、多くの地域で、まとまった土地が工業団地開発に活用されているのに対して、農業分野向けの大規模な土地提供が少ない点を課題として指摘する。「投資を加速するためには、インフラ整備が不可欠だし、ハイテク農場などを誘致するのであれば、各地方の地元の労働力のスキルアップが求められる。農家とFDI企業との連携の強化という点でも、改良の余地がある」と話す。

農業分野へのFDIを呼び込む戦略のひとつとして、高い付加価値をもつ農産物加工企業への投資を促すという方法がある。先進的技術を保有する企業、世界的な流通網とつながりをもつ企業、環境保護や持続可能な生産などを重要視する企業などを優先すべきだ。さらに、FDIが、国内企業とのジョイントベンチャー企業設立というかたちで行われることが望ましい。

ベトナムにおける欧州商工会議所(Eurocham)のレ・ミン・トゥイ・チャン氏は、「海外の投資家企業にとって、最大の悩みがベトナムにおける行政手続きだ」と話す。政府が海外からの投資を誘致するために、法人税や土地使用料などの低減措置を含む優遇策を採用してはいるが、「それらの優遇率を明確な数字として提示すべきだ」とチャン氏は言う。

南部地方投資促進センターのダン副所長も、さらなる海外企業向けの優遇策が必要だという意見で一致しており、「集中的な畜産地域や大規模農園、ハイテク農業ゾーンなどの実現を促進することで、海外の投資家にとってさらに魅力ある環境を作り出すべきだ」と言う。「政府は、農業発展の余地と可能性が特に大きい、北部山岳地帯や中央高原地帯、メコンデルタ地方などでのインフラ整備に投資をする必要がある。第4次産業革命に見合う農業発展に適応できるよう、地元の労働力の技能習熟の向上も必須だ」と指摘する。

「ベトナム政府は、環境や自然にやさしい農業に大きな希望を見出しており、現在の製造業、や加工業のように、ベトナム発展の推進力になると期待している」と、グエン・スアン・クオン農業農村開発相は言う。

海外からの資本は低迷しているものの、農業の発展、特にハイテク農業の将来性に可能性を見出す国内企業は増えている。酪農大手のビナミルクやTHトゥルーミルク、多角経営を展開するチュオンハイ自動車(Thaco)、畜産業や飼料製造のダバコグループ、食品大手のマサン、食品・飲料製造のラビフード、不動産や農業を展開するFLCグループ、鶏卵販売大手のバーファンなどがいい例だ。

海外投資局の幹部は、ベトナム農業の将来を、「秘めた可能性はあるものの、現在の分断化された家族経営の小規模農業のままでは、質のいい海外資本の投入を呼び込むことは難しい」と見る。農業分野への投資は、悪天候や自然災害、農産物の疫病などのリスクも高い。

農業農村発展情報センターのタイン氏は、海外からの投資手順を簡略化さると同時に、ベトナム側がよりよい土地利用計画などを策定することで、FDI企業が利用できる場所を探しやすくするなどの工夫も必要だと指摘する。「FDI企業が、土地をリース活用したり、地域の農家や農業協同組合と協力をしたりしやすくなるよう、おぜん立てが必要だ。また、税制優遇措置などの行政手続き面においては、電子化も採用されなければならない」と話している。

法律面での課題解決でいえば、ベトナム政治局が、2030年までのFDI政策の改良と効率化策を盛り込んだ議決50-NQ/TWを2019年8月付けで発効したほか、ベトナム政府も昨年4月、この議決内容を実現するための具体的な行動計画となる政令58/NQ-CP号を発令した。また、今年1月1日からは、投資法61/2020/QH14が有効となり、今後のFDIに関する法律的な課題が解決され、農業分野へのFDI増加につながるとの期待も寄せられている。