日本企業の投資先として注目高まるベトナム 製造拠点分散やM&Aなど多様化

日本企業の投資先として、ベトナムの注目が高まっているという。新型コロナウイルスの世界的感染拡大を受け、これまで中国依存が強かった日本企業で、サプライチェーン(供給網)の分散や多様化が進められていることが背景にある。この流れを受けて、新たな投資先としてベトナムが選ばれているのだ。

◇魅力的な条件
新型コロナウイルスの収束後をにらみ、ベトナムへ生産拠点を移転または新設することを発表した日本企業は、今年に入ってからの1カ月あまりで、すでに37社にのぼる。山田滝雄駐ベトナム大使は「サプライチェーンの多様化を求める日本企業にとって、ベトナムは最善の選択肢だからだ」と分析している。

日本政府は昨年、生産拠点が集中する中国から、第3国への移転を支援するプロジェクトを立ち上げた。プロジェクト参加企業81社のうち、ベトナムへの投資希者はもっとも多く、37社だった。2番目に多かったのがタイで、19社が移転するという。プログラムには2435億円(約230億ドル)の政府予算が盛り込まれたが、生産拠点を移転した企業には補助金が出されるが、申請した企業は、医療機器、半導体製造、携帯電話部品、空調設備などの製造業が中心だった。

ベトナムが締結した12の自由貿易協定も、日本企業のベトナム進出を後押しする魅力の一つだ。協定の実施により、アメリカやヨーロッパなどへ輸出されるベトナム製品の関税が、大幅に引き下げられるからだ。

日本企業がベトナムへと向かう理由はその他にもある。製造コストの安さ、政府が常にビジネス環境の改善を進めていること、物流インフラの整備と技術的基盤の確立なども、決め手となっている。アジア開発銀行の予想では、ベトナムの国内総生産(GDP)の約5.8%がインフラ整備に回されており、この割合は東南アジア諸国の中でも、もっとも高い。

さらに、ベトナム政府が貿易手続きを簡略化し、これも、日本をはじめとする外国諸国からの外国直接投資(FDI)の資金流入を実現させる契機となった。

一方で、投資の波を享受するためには、乗り越えなければならない障壁も多い。日本貿易振興機構(JETRO)ホーチミン市事務所の平井伸治所長は、「投資誘致にあたっては、ベトナムはインド、タイ、インドネシアなどとの間で厳しい競争が予想される。製造企業を対象にした管理手続きの多さや、複雑な付加価値税(VAT)還付など、煩雑すぎるさまざまな手続きの簡略化も望まれる」と話す。

◇主流はM&A
専門家によると、ベトナム市場は、日本の大企業だけではなく、中小企業にとっても将来性の高い投資先だという。中小企業は、ハノイ市やホーチミン市といった大都市ではなく、その他の地域への進出例が多いなど、今後、その形態はますます多様化しそうだ。

なかでも今後の増加が予想されるのが、企業のM&A(企業の合併・買収)だ。M&A支援を展開するレコフ(本社:東京都)で海外部門を統括する吉田正高マネージング・ディレクターは、「多くの日本企業は、将来性のある市場開拓を模索している。特に、コロナ後を見据えてのM&A案件が増えている」と話す。過去20年にわたる株主による再投資などで、日本企業は2兆3400億ドルにのぼる資金を蓄積してきた。その豊富な資金源に支えられ、2019年には過去最多の4000件のM&Aが実現しているのだ。

日本企業が行った海外M&Aで、もっとも多かったのがベトナムの企業の合併や買収だった。その数は33件、前年の1.5倍になった。

2020年も、新型コロナウイルスの感染拡大にもかかわらず、21件のM&Aが実施され、総投資額は2億8200万ドルに達した。ベトナムはインドネシアを抜き、この年のM&Aで件数、金額ともに第2位だった。1位はシンガポール(20億ドル)だった。

一例を挙げると、住友商事傘下のSSJコンサルティング社は、ベトナムの物流大手Gemadept社の発行済株式の10%を取得。また、住友生命は、4兆ドンの追加投資で、保有する保険大手、バオベト・ホールディングスの株を22%にまで増やした。あおぞら銀行は、ベトナムのオリエント・コマーシャル銀行に11%、あすか製薬は製薬大手のハタイ製薬に24.9%、それぞれ出資した。最近では昨年10月、三菱マテリアル社が、マサン・ハイテク・マテリアル社に出資し、発行株式の10%を取得したことなどが記憶に新しい。

このような流れから、新型コロナの収束後、両国間の移動制限が完全に解除されたときには、日本企業によるM&Aのさらに大きな波がベトナムに押し寄せるのでは、との期待が高まっている。