新型コロナ支援に政府の経済刺激策 ベトナムでは実施に賛否両論

新型コロナウイルスの世界的感染の打撃を受けた企業や経済を支援するため、政府による大規模な経済刺激策の導入が検討されている。提案を支持する経済専門家らがいる一方で、国内では市中感染がこの一カ月間、発生していないことや、ワクチン接種が進んでいる現状などから、刺激策よりも慎重なアプローチを提案する専門家もおり、ベトナムでは賛否が分かれている。

◇打撃受けた産業

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が影響し、生産や事業の一時停止を考えたベトナム企業は少なくないはずだ。それは、外出や移動の制限などで直接的な影響を受けた飲食業や観光産業に限らない。例えば、ベトナム国内の一部の繊維会社や衣料製造企業は、コロナの影響による供給の混乱から原材料不足に陥り、在庫が途切れる今月中にも、生産拠点を一時閉鎖せざるを得なくなる可能性があるという。昨年1月のベトナムの繊維・衣料品部門の輸出総額は、前年同月比23%減となっており、1年間にわたる継続的な影響で、疲弊する企業も少なくない。

他の業種でも、例えば農業やエレクトロニクス製造など、輸出先や部品供給元として中国に大きく依存していた分野も、同じようなジレンマに直面しており、なんとか生産を安定させ、販売を促す方法を模索している。このような困難は、特定の輸出先や供給先だけに強く依存してきたベトナムの産業体制の限界を、改めて浮き彫りにした。

このような現状から、多くの経済専門家らが、政府が経済刺激策を導入し、感染拡大がもたらした悪影響から企業や経済を守るべきだと唱えるようになっている。

 

◇企業財政は堅固

一方で、フルブライト大学ベトナム公共政策大学院のド・ティエン・アイン・テュアン氏は、経済刺激策には懐疑的だ。同氏は企業の資金が大きく不足してはおらず、実施の根拠が不十分であると分析。「むしろ、新型コロナがもたらした課題は、需要と供給の不均衡で、その対策を考えるべきだ」と訴える。ベトナムの金融状況や企業の財政状況も堅調で、テュアン氏は、「今年、銀行貸出しは前年比14%増の目標が設定されたが、現実にはほとんど資金融資は行われていない。銀行も貸付資金の不足になる心配はない」と指摘する。

テュアン氏はまた、政府による経済刺激策について、長期的には経済的課題の解決になる可能性があるものの、それ以前に、短期的な対策として、「打撃を受けた特定分野の企業に対して、免税や減税、納税期限の延長など、財務省が、早急に具体的支援を実施する必要がある」と主張する。政府が打撃を受けた企業や分野の商品を買い上げ、備蓄に回すなどの策も支援の例として挙げた。

ベトナム商工会議所(VCCI)のブー・ティエン・ロック会頭はこのほど、政府に対して、「新型コロナの影響から経済や財界を守るための具体的な勧告」として、ベトナム国家銀行による基本金利の引き下げ検討を要請した。 また、商業銀行による一定期間の返済猶予の実施や納税期限の延長、貸付金利の引き下げと融資枠の拡大など、新型コロナの影響を大きく受けた企業に対する措置を再検討するよう奨励している。 また、原材料やサービスなどの価格高騰を抑え、輸出入事業に対する原産地証明書の付与料金を免除することなども、各省に求めている。

これらの要請を受けて、迅速に動いた商工省は、運輸省や財務省と調整し、税金や手数料の見直し、高速道路などの通行料や駐車料金のほか、航空燃料税、港湾サービス料などの物流にかかるコストを引き下げた。

商工省はまた、特に中国貿易の中心となる北部国境地域で、農産物の流通や商品輸送などの障壁を引き下げ、好条件を提案している。今後は、運輸省に対し、物流のための陸路や鉄道を利用した国境往来や、国境検問所、港湾などで、新型コロナウイルスの感染が拡大しないよう、事業運営者などにさまざまなガイダンスを提供していく方針だ。

ベトナム保健省によると、4月27日時点で、ベトナム国内の新型コロナウイルス感染症の陽性者数は2852人で死者数は35人。市中感染は一カ月以上発表されておらず、感染は落ち着きを見せている。