ベトナムの自動車部品メーカーは近年、国内の自動車需要の拡大を受けて製造を拡大している。一見、明るい未来に向かっているようだが、その急速な前進は一方で、輸入の圧力という落とし穴によって妨げられているのが現状だ。

◇明るい将来を示唆
これまでのベトナム国内の自動車メーカーといえば、小型部品や予備パーツの製造が主流だった。だが、技術の向上により、多くの企業が、さまざまな金型を独自で作れる技術を身に着け、自転車やバイクのパーツ、基礎的な機械部品や電源ケーブル、プラスチックやゴム製部品、タイヤやチューブ類なども作ることのできる技術力を持つようになった。これらの製品の一部は国内の部品需要に適しているだけでなく、輸出に見合った基準や品質を実現しており、ベトナムの自動車産業の明るい将来像を示す。

その一例がサザン・ラバー・インダストリー(Casumina)社だ。3年前、米国市場の需要に応えて、基準に適合した高品質の乗用車用ライトや軽自動車のタイヤの製造を開。昨年には、自社ブランドで、乗用車用タイヤの製造にも乗り出した。

クアンニン省のハロン市ではこのほど、自動車の周辺部品製造に特化した工業団地、「タイン・コン・ビェット・フン製造コンプレックス」の建設工事が始まるなど、自動車産業への側面支援も見られる。ここは、ハイテク企業を中心に、高い製造技術をもった、さまざまな自動車関連企業が入居することになっているという。

ハノイプラスチック社(NHH)も、ベトナムの自動車産業の成長例だ。ホンダをはじめ、ベトナムで自動車を製造する各国メーカーのプラスチック部品の約40%は、同社の供給によるものだ。継続的な革新と改革によって、NHH社は、ホンダやトヨタ、ヒュンダイ、ピアッジオなど国際的自動車メーカーのほか、ベトナムのバイク製造企業VMEP社、国産自動車の製造に乗り出したビンファストなどにも信頼されるパートナー企業に成長している。特に、トヨタとの関係においては、両社は共同でプラスチック用金型のデザインや製造などを手掛けるほどだ。2019年にはビンファスト社とも提携し、同社の電動バイクのプラスチック部品の50%以上を供給した実績を作った。

◇障壁を取り除く
ベトナムで組み立てられる自動車はいまや、自国だけでなく、輸出の厳しい品質基準も満たせるようになった。自動車産業は、国の工業化と近代化を促進するための重要な原動力とも見なされている。

しかし、明るい将来像と同時に、ベトナムの自動車産業は、近隣諸国との激しい競争にも直面している。ベトナムの場合、自動車原材料や部品の80~90%を輸入に頼らざるを得ず、このために国内組み立ての自動車価格は、完成車を輸入した場合と比べ、10~20%も割高になってしまうのだ。

そこで、商工省は、自動車販売の市場規模と製造コスト高という2つの障壁を取り除くことに焦点を当てている。最優先事項は、国際的な法規を遵守しつつ、技術力を武器に、ベトナムの国内市場を守ることだが、同時に、自動車の海外への販売を増やすために地域間貿易を盛んにしていくことを目指す。

製造者の視点から、ベトナム自動車工業協会(VAMA)政策委員会のグエン・チュン・ヒュー委員長も、国内の自動車メーカーとすそ野産業の発展を妨げているのが、規模の小さい市場と、原材料や技術レベルの不足だと指摘する。

「これらの弱点を克服し、遅れず他国を追随し、さらにゼロ関税などを味方に高い生産コスト分を相殺するには、業界に対する国の追加支援が不可欠だ」と説明。輸入車の圧力を感じているベトナム企業の多くは、コスト引き下げにつながる輸入部品に関する優遇政策の実施を求めている。

ベトナムの自動車販売台数は、2025年までに100万台に達すると予想されている。これは、自動車産業にとって成長の機会となり得るが、ベトナムの企業や政府がこの好機をうまく利用しなければ、自動車関連のすそ野産業は東南アジアの他の国々に大きく遅れを取ることになり、国内の自動車産業は、下請けの組み立て産業と小規模メーカーの域を出ることができなくなるだろう。