ベトナムすそ野産業のジレンマ コロナや投資停滞、自由貿易協定の追い風生かせず

ベトナムが近年、海外各国・地域といくつもの自由貿易協定を締結したことで、ベトナムの工業発展の背骨といえるすそ野産業の前には、大きなチャンスと新たな市場が開けるはずだった。しかし、タイミング悪く世界を襲った新型コロナウイルスの爆発的感染拡大が経済を冷え込ませ、貿易の停滞や資金供給の不足などにつながって、挑戦が阻まれる現実に直面している。

◇資本、技術、能力の壁
ベトナム商工省によると、部品や周辺製品の製造で自動車や電子機器などの高度工業製品の製造を下支えするすそ野産業は、ベトナムの製造加工業全体の約4.5%を占める。これらの製造業者のなかには、あらゆる金型や、自転車・バイクの部品やパーツ、基本的な機械部品などを作れる優秀な企業がいくつも存在する。さまざまな業界で国産の最終製品が増えているのは、ベトナムのすそ野産業の生産能力が大きく向上したおかげだといえる。

しかしながら、すそ野産業に属するベトナムの企業の99%がいまだに、中小零細企業で、資本力も技術力も乏しい。実施されている優遇税制や優先的な融資、土地賃借料の軽減などの恩恵を受けるための様々な条件さえ満たすのが難しいのが現状だという。あるすそ野産業の企業経営者は、「銀行の融資施策が厳しすぎるため、企業の運営資金の融資を得るだけでも苦労した」と話す。特に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、世界的な貿易や部品供給などの停滞で、ベトナムのすそ野産業も大きく打撃を受けた。

ベトナムすそ野産業協会(VASI)のチュオン・ティー・チー・ビン副会長は、中小零細企業が優先融資を受けるための障壁が高いうえ、現実には、担保手続きの複雑さなどで、投資基金の運転資金融資を受けるのでさえ困難であると話す。「他の国では、中小企業であっても、サムスンやキヤノンなど世界最先端ブランドからの大口注文を受けている企業であれば、優先融資の対象にしてもらえる。ベトナムにはその発想がない」とビン副会長は問題提起する。

◇法整備で後押しを
すそ野産業企業は、関連当局に対し、市場の情報を開示し、中小零細企業も融資などのさまざまな優遇施策の対象とするよう求めている。さらに、政府に対して、すそ野産業支援法を準備し、承認のために国会で議題にするよう提案した。一部では、ベトナムの外資系企業が製品製造のさいに、ベトナムの企業に対して部品製造を発注するよう奨励し、ベトナムでの製造比率を高めるように求めている。

昨年8月には、商工省の助言を受けて、すそ野産業を支援し、製造加工業を大きく前に推進すると期待され「すそ野産業発展に関する首相令115 / NQ-CP」が公布された。2025年を目標に、ベトナム企業が競争力の高いすそ野産業製品が生産できるようになるとの方向性を定めており、計画通り支援が進めば、国内工業生産目標の45%が達成できることになる。 さらに、ベトナムの製造業の約30%にあたる約1000社の企業が、ベトナムの工業品組立企業や外資系企業に直接、部品やパーツなどを供給できるようになるよう、技術力の向上などを目指す。

さらに商工省はこの規制を改正、補足し、商工省産業局で、地域当局や海外のベトナム貿易事務所などとも協力していく考えだ。今後、投資の促進と世界的な生産やサプライチェーンの構築開発を強化し、ベトナムがこれまでに署名した自由貿易協定を大きな利点として活用していく考えだ。

さまざまな計画や予測によると、これがうまくいけば、2030年までに、すそ野産業が生産する製品は国内製造業の需要の70%を満たせることになる。これは、ベトナムの工業生産額の約14%に相当する。 組立てを展開する企業や外資系メーカーに直接部品やパーツを供給できる企業数が、約2000社まで増えると期待されている。