2021年をデジタルトランスフォーメーション元年に 中小企業のIT化加速へ

ベトナムは近年、情報技術(IT)を進化させ、先進国に追いつくことを目指している。特に、ITの浸透や活用によって企業の製造効率や人々の働き方を改善する「デジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)」を実現させ、2021年をデジタルトランスフォーメーション元年にしようとの期待が高まっている。

◇企業のデジタル化を加速
ベトナムのデジタルトランスフォーメーション計画は、電子政府の構築▽経済の電子化▽社会へのIT活用の浸透―を三本の柱として、昨年、活動が本格化した。米国に本拠地を置くIT大手、シスコシステムズは、ベトナムの中小零細企業にデジタル技術が導入できれば、2024年までに国内総生産(GDP)が240億~300億ドル増えると試算している。

だが、ベトナムの企業が利用する機器の80%は、海外からの輸入された1980~1990年代の古いものが中心だ。そのため、IT化に適応していないものも多く、多くの中小企業でデジタル化実現に課題が残る状況だ。

機器類だけではなく、デジタル技術を応用するための戦略も乏しく、市場の変化への適応も遅い。ベトナムがデジタル化においてフィリピンやインドネシアに遅れをとっているのは、このためだ。

ベトナムソフトウェア・ITサービス協会(VINASA)が行った調査によると、ITやデジタル技術の導入に向けて前進しているのは、ベトナムの企業の15%に過ぎないという。ほとんどの中小企業は、デジタル化に必要な投資資金をかき集めるのに苦労しているのが現実だ。

デジタル化に関するコンサルティング業を展開するグエン・ビェット・ロン氏は、「ベトナム企業のデジタル化の過程を阻んでいるのは、企業経営者と従業員の間の調整不足、高額になる投資、脆弱なままの情報技術基盤、そして技術を持つ人材の不足だ」と指摘する。

◇企業のデジタル化を側面支援

ベトナム計画投資省企業発展局のグエン・ティー・レ・キュイエン氏は、「当局は、企業のデジタル化推進を後押しする支援プログラムを実施している。それをぜひ活用してほしい」と提案する。プログラムは今年1月に計画投資省が承認して実施されたばかりで、今年から2025年まで展開する。さまざまなIT技術の適用や統合によって企業内のデジタルトランスフォーメーションを支援し、生産性の改善▽ビジネス活動の効率化▽高い競争力―といった利点を実現するのがねらいだ。特にIT情報を活用するための様々な機器(デジタルツール)やインターネット上のデジタルプラットフォームなどの構築とともに、ビジネスに役立つデータベースのデジタル化の実現に焦点を当てている。

ベトナムのソフト開発大手、ミサ社のホー・ズック・フン副部長は、デジタルトランスフォーメーションを加速させるには、企業が抜本的な手法を採用する必要があると主張。その一例として、同社では社内の紙ベースの書類を現状の20%にまで削減し、残りをデジタル化しているという。

中小企業専門のデジタル導入を支援する企業、DR.SME社のブー・テュアン・アイン副部長も、「成功のためには企業経営者や企業トップが実践的なアプローチを採用する必要がある。デジタルに精通した人材の確保、データなどのデジタル化が急務だ」という。

現状では、まだIT化に向けた企業方針や取り組みが不十分で、資金や人材、インフラ整備やネットワーク上での接続にも制限はあるが、中小企業にもデジタルしやすい側面がある。それは規模が小さいがゆえの柔軟性と、適応能力の高さだ。新たなITビジネスモデルや大企業のIT化過程に学び、創造性を働かせて、それを自社の規模や事業内容に適合させ、柔軟に取り入れていくことが重要だ。特に、サプライチェーンに焦点を当て、自社のサプライヤーと、顧客側の双方を意識してデジタル技術を運用していく必要があるだろう。