ベトナム経済、格付け機関が明るい展望予想 ワクチン接種の可否がカギ

4月以降ベトナムで発生した新型コロナウイルスの感染拡大の第4波にもかかわらず、国際的な分析では、ベトナム経済の今後の見通しは楽観的だ。米国の民間格付け会社、S&P グローバル・レーティング社はこのほど、ベトナムの国家信用格付け見通しを「安定的」から「ポジティブ」に引き上げるなど、今年下半期には、ベトナム経済が新型コロナ前の水準に回復するとの見通しが強い。

◇経済成長続くとの予想
S&Pは5月末の発表で、ベトナムの格付け見通しを「安定的」から「ポジティブ」に上方修正した。世界主要格付け会社のムーディーズ、S&P、フィッチ・レーティングスの3社がともに、見通しを「ポジティブ」に引き上げた国は、ベトナムだけだった。2020年には、新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響で、120カ国の格付け見通しが引き下げられており、今年21日にも、新たに16カ国の評価が引き下げられている中でのことだった。

S&Pは、ベトナムの国内総生産(GDP)は今年、8.5%伸びを見せ、2022以降のベトナムの長期成長目標に近づくと予想。昨年10月の段階で、S&Pの2021年のGDP成長率予想は11.2%増だったのが、4月以降の新型コロナ流行の第4波によって、5月末の予想で成長率は引き下げられたが、依然として8.5%と高い成長率予想だった。

東南アジアで最も注目される投資先であることの魅力に加え、若いだけでなく、教育水準も高まり、競争力を身に着けつつある同国の労働力の両方がけん引力となり、「ベトナムの長期的な発展にむけた軌道は、これまでの目標から大きくそれることはないだろう」と予測された。

一方、スタンダードチャータード銀行は、今後のベトナムの今年のGDP成長率が、第4波の感染の急拡大前に予想していた7.8%増には及ばないものの、それに急速に近づき、年内には6.7%増を達成すると予想。さらに来年は、7.3%増の経済成長を予測している。

「ベトナム経済-今年も堅調な業績」と題した同銀行の直近の世界的報告において、スタンダードチャータード銀でタイとベトナムを担当するエコノミスト、ティム・リーラハファン氏は、「ベトナムの経済基盤は堅調を維持している。世界的に見てもベトナム経済は、コロナ禍でももっとも成績の良かった国のひとつだ」と記した。一方で第4波の感染拡大を考慮し、今後については「ベトナムにおける新型コロナの感染と制御の展開を、注意深く見守る必要がある」とした。

フィッチレーティングも、「新型コロナにもかかわらず、ベトナムの見通しは明るい」と分析している。同社は世界的な幅広い経済回復に伴い、ベトナムのGDP成長が、今年から来年にかけて7%台にまで回復するとの見通しを立てており、輸出の増加が実現すると同時に、国内の経済も徐々に正常化し回復すると見ている。

イングランド・ウェールズ勅許会計士協会から委託されたオックスフォード・エコノミクスの最新の経済予想報告書でも、ベトナムの成長見通しは、最近のコロナ患者数の増加にもかかわらず楽観視されており、「同国経済は今年第2四半期には、新型コロナ前の水準まで回復すると見込まれている」と楽観的だ。今年のGDP成長率は7.6%と予測され、東南アジアでは最も高い予想となったが、その分析の根拠として、「新型コロナをうまく抑制できたことから、昨年、経済成長を維持できた数少ない国だった」と理由を挙げた。「この初期段階での成功により、ベトナム経済は世界の貿易急増の恩恵を受け、輸出向けの商品製造業を強く後押しする外国投資の流入を享受することができた」と結んでいる。

◇今後のカギはワクチン接種
ベトナムを含めた東南アジア地域では、今年の第2四半期の成長バロメーターとなるのは、依然として新型コロナワクチンの接種進度だろうと専門家らは見る。アジア開発銀行(ADB)ベトナム支部のアンドリュー・ジェフリー代表は、今年4月にコロナの市井感染が急増し、ワクチン接種計画の進展が遅れた時期に、リスクが見え始めたと課題を指摘する。

以前の普通の生活を取り戻すために、ベトナムは、国民の70%のワクチン接種による集団免疫を獲得し、それを必要な限り、毎年維持していくという目標を定めている。先日行われたベトナム新型コロナワクチン基金の発足式典で、ファム・ミン・チン首相も、「コロナ禍を乗り越えるためには、長期的かつ戦略的な解決策としてワクチン接種が必要不可欠だ」と強調した。

計画投資省の研究機関であるベトナム中央経済管理研究所(CIEM)のチャン・ティ・ホン・ミン所長は、第4波が早期に抑制され、労働者らにワクチンがいきわたれば、今年は昨年よりも高い経済成長を実現することができると話す。「同時に、昨年の教訓から、効率よく公共投資を加速させることが極めて重要だと言える」とミン所長は言う。

オックスフォード・エコノミクスの最新の経済予想報告書でも、イングランド・ウェールズ勅許会計士協会のマーク・ビリントン国際部管理部長が、「新型コロナウイルスの新たな発生件数を抑えられ、さらに高いワクチン接種を実現できた国が、地域内の他の国々を上回り、より早い経済回復に近づくことになるだろう」と、新型コロナ対策が景気浮揚のカギとなることを指摘している。