地理的表示の取得や商標登録を促進、輸出加速の切り札に

ベトナムの製品や農産物に地理的表示(GI)などの知的所有権を取得し、ブランドを確立することは、ベトナムの特産品の価値を高め、知名度を堅固なものにするために必要な、重要な手段だ。法的に企業を守り、ベトナムの農産物が、昨年発効したEU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)による貿易拡大の潮流に乗るための切り札となり得る。

◇厳しい市場への進出
ベトナム南部キエンザン省、タイランド湾に浮かぶベトナム最大の島、フーコック島で作られるニョックマム(魚醤)は、欧州連合(EU)の原産地証明を獲得し、EU加盟全27カ国で商標が正式に保護されたベトナム初、そして東南アジア諸国連合(ASEAN)初の農産物だ。登録によって、島のフーコック地区内で生産やビン詰めが行われ、さらに特別な品質基準を満たす製品のみが、EU諸国で合法的に「フーコック産ニョックマム」として流通できることになった。

商工省によると、EUが農産物の地理的表示保護でベトナムと合意したのち、EU向けのフーコック産のニョックマム輸出は急激に増え、販売単価も依然と比べ30~50%上昇したという。さらに、EU以外にも、米国、オーストラリア、日本やカナダへと輸出先が広がった。

バクザン省のルックガン産ライチ=写真㊦=も、海外におけるベトナム産物の地理的表示の登録を受け、保護されている農産物の一例だ。地理的表示の取得によって、オーストラリアやフランス、米国といった、高い品質を要求する農産物市場にも進出が可能となった。ルックガン産ライチはさきごろ、日本においても地理的表示の保護証明書を得たベトナムの最初の農産物となったが、これらはすべて、主要なベトナム産品の知的所有権保護における重要な成果といえる。

商標登録や地理的表示の保護などを受け、海外でそのブランドが守られているベトナム産品はほかにもある。中部高原地域、バンメトート産のコーヒーはロシアとタイにおいて、また北部イエンバイ省のバンイエン産シナモンもタイで、それぞれ地理的表示の保護を取得。南東部の「ビントゥアン省ドラゴンフルーツ」は、日本で商標登録されている。タイグエン茶(東北部タイグエン省)も米国と中国で団体商標を、モックチャウ茶(北部山岳地方ソンラ省)はタイの商標保護証明を、それぞれ獲得している。

地理的表示や商標の保護意識のベトナム国内での高まりや、海外に輸出する農産物の地理的表示や商法保護取得を増やそうという戦略は、ベトナムが、海外市場にさらに深く切り込むことを最優先していることを如実に示している。

昨年発効したEUベトナム自由貿易協定のもとで地理的表示の保護を受けたベトナム産品は、39種にのぼる。これらの商品のうち、野菜と果物が全体の49%を占め、食品や工業の原材料として栽培され、加工をへて最終製品となる「工芸農産物」や農産物の加工食品が15%、魚介類とその加工品が13%を占める。

◇支援の多様化が必要
農業に適した土壌や人的資産を持つ農業国ベトナムには、何千種もの高品質の農産物や製品があり、味や品質など生産地の評判と経済的価値を結びつけて付加価値を創造できる可能性は大きい。

ベトナムの経済が世界経済と深く結びついた現状から、農業システム研究開発センターのチン・バン・トゥアン博士は、「ベトナム産の農産物は国内だけではなく、今や輸出先の国際市場でも、激しい競争に直面している」と説明する。そのため、地域の商標を保護し、品質が良く、付加価値のある特定の製品の輸出に焦点を当てて、輸出戦略を多様化する必要があると指摘する。

「地理的表示や団体商標などのさまざまな知的財産権保護の手法で、ベトナム産品の産地表記を守り、産品の知名度を高めることは、現代において世界各国が採用できる非常に優れた手段だ。国内外の市場において、商標権の侵害をさせないためにも有効だ」とトゥアン博士は話す。

科学技術省傘下にあるベトナム知的所有権研究所のタ・クアン・ミン所長は、「海外における地理的表示保護の登録は、ベトナム産の農産物などの市場占有率を確保するために、たいへん重要な手続きだ。だが、特産品を持つ農産物などの生産地域や手工芸村などの多くは、この複雑な申請時に、公的な支援を必要とすることが多い」と、自治体などによる支援制度の構築を促した。

ベトナム国家知的所有権局(NOIP)のディン・フー・フィー局長は、産地や製造企業に向けた支援策について、多様なアプローチを構築し、実施していくことを約束しており、すでに生産地や地域、役所間などの調整を行っている。しかし、さまざまな課題の根本解決のためには、関係する公的機関が商標などの登録に必要な手続きや申請手順のガイダンス実施だけでは足りない。このような実務的な支援に加え、今後は、登録後の商標管理や、地理的表示が取得できそうな産品の発掘などの側面でも、長期的な方向性を示す必要が出てきている。