急成長のスタートアップ企業 コロナ禍の中、世界から注目

新型コロナウイルスの感染拡大でほとんどの国々のスタートアップ企業の4分の3が短期的な資本不足で休止状態に追い込まれている。こうした逆風にもかかわらず、ベトナム国内のスタートアップ企業の多くが成長の勢いを増し、世界の投資ファンドからドルを呼び込んでいる。

新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの産業にとって厳しい挑戦となった。今年初め以来、約5万9800社が活動を休止。休止企業は、昨年同時期より23%以上増加した。こうした厳しい状況にもかかわらず、ベトナム国内のスタートアップ企業は、以前にも増して健闘。海外の投資ファンドなどから何百万ドルという資金を集めている。

今年1月、電子決済サービスのモモ(MoMo)は、第4ラウンドになる資金調達(シリーズD)が完了したと発表した。新たな投資者の中には米国の投資ファンド、グッドウォーター・キャピタル(Goodwater Capital)やコラ・マネジメント( Kora Management)などが含まれている。投資者との合意で、モモは集めた資金の額を明らかにしていないが、情報源がブルームバーグに語ったところによると、1億㌦(約110億円)以上になる。

また6月には、世界3大投資ファンドの一つ、米国のKKRが、Eクエスト・ エデュケーション・グループ(EQuest Education Group )に1億㌦を出資。Eクエスト・ エデュケーション・グループは、不動産、ビンホームズ(Vinhomes)、食肉のミートライフ(MEATLife )に次いで、KKRが投資する3番目のベトナム企業となった。

その前には英語学習アプリのエルザ(ELSA)がベトナム・インベストメンツ・グループ(Vietnam Investments Group )などから1500万㌦(約16億円)を調達。ゲーム大手のVNGコーポレーション(VNG Corporation) は、デジタルギフト事業を展開するスタートアップ企業、ゴットイット(Got It)に600万㌦(約6億円)を出資した。

複数のベンチャーキャピタファンドによると、新型コロナウイルスはスタートアップ企業への投資を減速させている。しかし、ベトナムのスタートアップ企業は今年、東南アジアでトップの2億9043万㌦(約320億円)を調達。昨年、国内で開催されたベトナム・スタートアップ投資ファンドフォーラムでは、33の投資ファンドが今後2025年までの間に8億1000万㌦(約890億円)を投じる契約を結んでいる。

科学技術省技術開発事業化促進庁のファム・ホン・クワット長官は、「ベトナムのスタートアップ企業をとりまく環境は、顕著な発展を遂げており、今や東南アジア地域の先進地として国際的なファンドに注目されている。たとえ一度失敗しても、再び立ち上がってくるベトナムのスタートアップ企業を、多くの海外の専門家が賞賛している」と話す。

クワット長官によると、ベトナムは2025年までのスタートアップ企業振興のための 国家プロジェクト・(プロジェクト844)を修正、補充する予定だ。スタートアップ企業を直接的に支援する政策や、「スタートアップ投資クラブ」の実験事業も行う。「スタートアップ企業の支援に向けて、海外との協力を強化することで投資を呼び込み、市場を開拓していきたい」とクワット長官は意気込む。

個々のスタートアップ企業をみても、活気が伝わってくる。自然農法など健康志向の生鮮食品のネット販売を展開するフードハブ(FoodHub)の創業者、グエン・チュアン・ビン氏は「パンデミック以前、アプリユーザーは1万8000だったが、感染が拡大してからは、わずか2週間で7000人増えた。アプリのユーザーは200%から300%の成長率で、アップル・ストアのダウンロードランキングでトップ10入りしている」と胸を張る。

パンデミック以前、シェアオフィス提供会社のWeWork(ウィーワーク)や金融のGreensill(グリーンシル)、コンストラクションテックのKaterra(カテラ)など欧米の名だたるスタートアップ企業が、成長第一主義で行き詰まった。

ベンチャーキャピタルのシンク・ゾーン・ベンチャーズ(Think Zone Ventures)のブイ・タン・ド最高経営責任者(CEO)は、「ベトナムのスタートアップ企業は、単純な購買、販売モデルではなく、新たな価値を創出することにフォーカスしている。そして、その成長のために投資ファンドの資金を活用している」と話す。

ベトナムのスタートアップ企業の多くは今、持続可能なITの開発、導入に注力している。大手通信会社、ベトテル・テレコム(Viettel Telecom )の幹部は「多くのスタートアップ企業は慎重に持続可能な道を選択するようになってきた。彼らは、市場トレンドを追うのではなく、他のものとは異なる核心的な価値に焦点を当てている。そして多くの場合、ITがカギとなっている」と話す。そのうえで「たとえば、ITなら、同業者をしのぐような持続可能なプラットフォームの開発など、スタートアップ企業は、これまでとは異なるものの創造に注力していくべきだ」と示唆した。

シンガポールに拠点を置き、ITスタートアップ企業を中心に投資するベンチャーキャピタルセント・ベンチャーズ(Cento Ventures)は、制度の整備や経済環境からベトナムがASEAN(東南アジア諸国連合)屈指の“スタートアップ企業王国”になると予測。このことはベトナムのスタートアップ企業にとってチャンスというだけではなく、ベトナム経済全体の発展にも寄与するだろうとしている。