熟練職人、技術者など「人材の早急な育成を」 すそ野産業が渇望

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大がもたらした停滞後、部品製造などベトナムのすそ野産業は、回復の時期に差し掛かっている。だが、他の産業と同様、人材不足が回復を妨げる要因となっている。特に課題なのが、高度技術を持つ熟練職人の早急な育成だ。

◇労働力不足の懸念
ベトナムの製造業における人材育成が検討されたオンライン会議で、人材育成を手掛けるマンパワー社のボー・ティ・ビック・チュイ氏は、「製造業に従事するベトナム企業のほとんどが、労働者の確保に困っている。人材不足によって、注文通りの納品ができないことがあるほど、問題は深刻だ」と語った。特に今年4月に新型コロナの第4波がベトナムを襲った後、その状況は、より深刻化しているという。

一般的な労働力の不足に加え、多くのすそ野産業企業が、自社の生産性を向上させるために、熟練職人や高度な技術を身に着けた人材を切実に必要としている。これは、ホーチミン市の「人材予想・労働市場情報センター(FALMI)」が、今年第3四半期に行った調査で浮き彫りになった。この調査によると、約4万3000人の求職者のうち、大学卒業資格や中等教育終了資格を持っていたのは、全体のわずか38%だった。

ベトナムのすそ野産業は、近年、機械部品などの世界的な供給網へと参入するチャンスを手にしている。しかし、資格や技術を要する高度な人材を早急に育成できなければ、これらのチャンスをものにすることはできない。

◇高度技術者や熟練工の不足
高度技術を備えた人材や熟練工の不足は、これまでも長年、すそ野産業にとっての課題だった。「ベトナムすそ野産業協会」のドー・チー・チュイ・フオン会長は、「例えば、電子機器メーカーが工場職員を採用しても、そのほとんどは、即戦力にならない。製造ラインでの実地訓練が行えるようになるまでだけで、最低でも2~4週間の基礎訓練が不可欠なのが現状だ」と語る。技術のある労働者ならば、現場研修だけで製造ラインに立たせることができるが、このような高い技術を有する人材は、さらに高度な技術を獲得させるために海外の生産現場などへの技術研修に出されてしまうことが多く、現場での熟練工の不足の解決につながっていない。

すそ野産業が成長に見合った労働力を確保し、今後の投資を誘引するための長期的な解決としては、労働者全体の技術の底上げが必要だ。一方で、新型コロナによって引き起こされた短期的な人材不足も解決する必要があり、こちらはさまざまな省庁や組織間の連携が不可欠だ。とりわけ、教育訓練機関と企業が積極的に協力して、課題解決に取り組む必要がある。
ホーチミン市のすそ野産業発展センター(CSID)のレ・グエン・ズイ・オアイン副センター長は、中小企業が必要とする人材像などを調査し、専門家を招いたうえで、工場などでの訓練を提供していく考えだ。同センターでは、とりわけ金型製造技術の分野を重視しており、これらの技術を身に着けた人材を育てるための特別訓練プログラムを実現させる予定だという。

商工省が運営する職業訓練学校なども、卒業後すぐに、すその産業での就業が可能なように、高度な技術をもった人材の育成を加速させている。カオ・タン技術短期大学のグエン・クオック・バン機械エンジニアリング学部長は、「業界ニーズに合致する技術を持った人材」の育成の重要性を説き、「われわれは、企業の需要に沿った教育訓練を行っている」と話す。同短大では、200社以上の企業と密に連携することによって、より現場に適応した教育訓練プログラムを提供でき、「卒業者らを即戦力として多くの企業へと送り出すことにつながっている」という。