ネスレ、ベトナムへの投資拡大 世界の食料拠点に 環境保護など社会改善にも貢献

世界最大の日用消費財、食品製造などのメーカーであるネスレ社(スイス)は1995年、子会社のベトナム・ネスレ社を設立した。南部ドンナイ省に3カ所、フンイエン省に1カ所の製造拠点と2カ所の配送センターを構え、計2200人以上の社員が働くベトナム最大のスイス系企業だが、さらにベトナムを世界の食品や飲料製造の中心地にすべく、チーアン工場に追加の資金を投入するなどベトナムへの投資を拡大している。

ネスレベトナムのビヌー・ジェイコブ常務=写真=は、「ベトナムは持続可能な成長の可能性を秘めており、それがネスレのベトナムへの投資拡大を強く促した理由のひとつだ」と語る。

ジェイコブ常務はさらに、「進出からの25年間に築いたベトナムでの存在感を土台に、ネスレベトナムを食料や飲料の東南アジア地域の、さらには世界の拠点にしていきたい」と抱負を語った。

この将来像を実現させるために、ネスレベトナムは今後2年間にわたり、1億3200万ドルを投資し、同社のチーアン工場(ドンナイ省)の高品質コーヒー製造ラインを倍増させることを決定。この実現によって、チーアン工場は日本や北米、欧州各国に高級品を供給する、世界でも最大級の輸出用コーヒー製造工場になる。

ネスレは現在、ベトナムのコーヒーの約20~25%を購入しているベトナムのコーヒー豆バイヤーの最大手だ。ベトナムのコーヒー農家から持続可能な栽培方式で栽培されたコーヒー豆を買い入れており、その年間購入額は約7億ドルにのぼる。同社の成長は何年も続けて二桁で推移しており、しばしばドンナイ省最大の税金支払い額を記録している。

同社が、ベトナムの持続可能な成長に大きく貢献してきたことは、同社が受賞したいくつもの賞が物語る。例えば、商工省による「優れた輸出企業2020」や製造業分野の「持続可能な企業トップ3」、さらには社会経済的な発展や慈善活動の展開などが評価され功労証明書も発効された。さらに言えば、ネスレ社は商工省がコーヒー製造分野では唯一承認している外国資本企業だ。

◇環境に優しい行動
ネスレベトナム社は、自社だけでなく原材料供給者に対しても、2050年までに二酸化炭素排出をゼロにする計画を立てている。そのため、2025年までにすべてのパッケージをリサイクルまたは再利用する予定だ。

すでに実施すみの環境への配慮施策としては、ミロやネスレミルクなどの飲料に、ベトナムで初めてFSC(森林認証)の紙ストローを使ったことなどが挙げられる。今年に入ってからは、「プラスチック・ストローお断り」キャンペーンを実施。9800万人の市民が、プラスチックゴミの削減のために積極的に行動に加わった。また、同社傘下のラヴィー社は、リサイクル資材でペットボトルを作り、ミネラルウォーターを詰めて販売を始めるなど、プラスチックゴミ削減に取り組んでいる。

今では他の消費材製造企業やパッケージメーカーなどと提携し、「ベトナム・パッケージ・リサイクル協会(PRO Vietnam)」を設立。循環型経済を実現し、ゴミを資源として再活用することを目標に掲げている。ネスレベトナムは、世界経済フォーラムのプラスチック問題対策イニシアチブ(GPAP)やベトナムプラスチック問題対策プログラム(NPAP)にも積極的にかかわり、2015年以降、ベトナム国内のすべてのネスレ工場は、廃棄物をすべて再利用やリサイクル活用するか、または焼却して熱エネルギーとして活用するなどして、埋め立て処理されるゴミをゼロにした。特に突出しているのがネスレ・チーアン工場で、焙煎後のコーヒーの搾りかすは、バイオマスエネルギーへと還元されている。

環境に配慮したネスレの経営姿勢が評価され、同社は昨年、天然資源省の「ベトナム環境賞」を受賞した。

◇新型コロナ対応
2020年初頭に新型コロナウイルスの感染が始まった直後から、ネスレベトナム社はさまざまな対応を実施し、政府や医師、医療関係者、ボランティアや支援団体、民間企業や従業員らの支えとなってきた。具体的には健康促進としての「健康で前向きに生きよう」キャンペーンや、無料の食糧や物資提供「0ドン市場」の実施や「善意の袋詰め」の配布などを展開してきた。

その一方で社員らへのワクチン接種を進め、職員らの自宅からのテレワーク実施にも積極的だ。さらに今年に入ってからは、ドンナイ省、フンイエン省、ロンアン省の新型コロナウイルスのワクチン基金に対して17万4000ドルの寄付を実施。ホーチミン市とドンナイ省内十数カ所の病院や隔離型のコロナ療養施設に対して、4万3500ドル分の医療機器を贈ったのに加え、祖国戦線を通じて医療現場のスタッフや新型コロナの影響を受けた労働者や貧困家庭などに対して、180万点のネスレ商品が差し入れされた。
これらの活動は、政府の新型コロナ対策への支援と評価され、ファム・ミン・チン首相から功労証明書を贈られている。

◇ベトナムの魅力
ベトナムの魅力は政治的安定と柔軟性で、ネスレのような海外企業が投資を決定するさいの検討事項となる。「ベトナム政府は、必要と判断すれば、大胆な行動をとることを躊躇しない」とネスレベトナム社のビヌー・ジェイコブ常務は話す。

すでに25年にわたって多くの実りを得たという実績と、南北に長い海岸線を保有していることから世界に向けたアクセスも申し分ない。さらに「若い労働力の多い人口比率も大きな利点だ」と付け加えた。

ベトナムの地域経済と世界経済への統合は急速に進んでおり、ビジネスに好ましいさまざまな条件を生んでいる。近年、ベトナムは、世界貿易機関(WTO)、ユーラシア経済連合、欧州連合(EU)、ASEAN経済共同体(AEC)など、多くの自由貿易協定への参加を通じて、国際経済統合を非常に成功させた。 「新型コロナがもたらしたさまざまな課題にもかかわらず、世界的および地域的な製造ハブとしてのベトナムの将来は明るい」と分析し、今後さらに持続可能な投資を増やしていくという。