コロナ禍の宅配事業、ニュー・ノーマルへの適応に向けて知恵絞る

新型コロナウイルスの感染拡大に起因して、ベトナム各地で社会的な混乱が生じるなか、社会経済や人々の生活の回復と発展に、郵便と宅配事業が重要な役割を果たしていることが再確認された。その事業運営はまだ障壁も多いが、電子商取引を展開する企業らからの支持の高いJ&T Express社をはじめ、郵便・宅配業界への信頼と期待が高まっている。

◇重要な宅配事業の存在意義
2021年の第2、第3四半期は、ベトナムの新型コロナウイルス感染拡大がピークだった時期で、郵便や宅配便サービスを含め、ほとんどの社会経済活動が多大な損害を被った。情報通信省が第3四半期に行った国家経営評価報告などによると、2021年9月現在、郵便や配達事業を展開する企業は計650社で、前年の年末に比べて67社増えた。

しかし、売上高をみると、今年第3四半期の宅配事業の売上高は約5兆ドンで第2四半期の50%減、1~9月の売上高は約25兆ドンで、前年同期比3%減だった。7~8月の感染者急増が影響し、第3四半期の収益は第2四半期と比べ50%も減った。

その背景には、新型コロナの影が色濃く見える。郵便事業各社は、感染が多発したハノイ、ホーチミン、西部・東南部などで配送トラックが省をまたぐ移動の際に足止めされ、渋滞が発生して輸送時間が大幅に増えたほか、一部地域では、郵便物の配達員らが検問所を通過できないといった事態が生じた。また、感染多発地域や自主隔離地域にある事業拠点や倉庫は閉鎖を余儀なくされ、さらには、このような地域に暮らす配達員が自宅から職場へ向かえず、配達を担う人材が激減したことも響いた。

コロナ以外にも停滞の遠因はあった。QRコードなどの発行不備などは、代用技術の採用が実現していない。地方自治体の要請によって従業員数を減らさなければならず、郵便事業各社は運営に足りる人材が不足しており、郵便各社は、ホーチミン市では必要な従業員の20%、ハノイ市に至っては50%しか確保できないのが現状だ。また、郵便物や荷物を配達する配達員のPCR検査費用も企業負担であるため、経営の大きな負担となっている。

こうした困難な状況の中でも、郵便や宅配事業各社は、経済における重要な役割を果たしていることを自任している。感染拡大を防ぐために、医療を除き、ほとんどすべての社会・経済活動が停止しなければならなかったとき、郵便や配達サービスが社会の動脈となり、ベトナム経済の安定と生命線を維持することになるといっても過言ではない。そのため、業界全体としての収益の激減にもかかわらず、同分野への企業参入は増加しているのだ。

◇逆境は知恵をもたらす
感染状況が落ち着いた今、「ニュー・ノーマル」へと転換する2022年に向けて、ベトナムの郵便や宅配事業は絶えず変化し、競争力を高め、市場獲得のために適応する必要がある。今年年初以降、多くの企業が積極的に投資を増やしており、デジタル技術を応用するなど他社との差別化を図っている。特に目覚ましいのは、国際的な配送を手掛ける配送新興勢のJ&T Express社だ。電子商取引大手との提携を相次いで実現させて業界を驚かせた。国内だけでなく、200以上もの国と地域で事業を展開しており、世界中へ商品配送できることが強みだ。

J&T Express社はベトナムの63の省と市に1000カ所以上もの拠点を持ち、その数は2018年の設立時から倍増している。さらに36カ所の配送センターを持ち、25万人以上の従業員を抱える。来年初めには、37カ所目となる輸送用の大型ハブ拠点も稼働の見込みだ。国内最大級の6万平方メートルにも及ぶこの拠点は、ベトナムでももっとも近代的な物流ハブ拠点になる見込みで、自動化された分類システムやスマートロジスティクス規格に基づくハンドリング設備、コンベアシステムなどの最新技術が導入され、1日あたり最大200万個の荷物を短時間で高精度に処理できる。

同社のブランドディレクターであるファン・ビン氏は、「J&T Expressの強みの一つは、出荷プロセスにおける情報技術と近代的な機器の適用だ」と話す。さらにはオンラインビジネスの利便性とサポートを実現するために、販売管理ソフト、宅配便サービス、などの事業が一体化している点で、コロナ禍という逆境にあって前者をあげて知恵を絞った結果だ。

今年J&Tは、ネットショップ展開のハラバン社と協力し、オンラインビジネスを展開する企業の支援事業に着手。さまざまなアイデアの採用で、送料を最大50%削減したほか、店舗や企業の従業員の作業効率を大幅に向上させた。ビン氏は「宅配事業とIT分野の協力は、小売企業やオンラインビジネスがデジタル時代に効果的な販売管理を展開する機会となっている」と話す。