ベトナム産農産物、北欧諸国への市場拡大なるか

市場や人口規模は大きくないものの、スウェーデンをはじめとする北欧諸国は、EU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)による恩恵を受けられる上、比較的所得の高い消費者が多いことから、ベトナムの商品にとって潜在力のある市場だと考えられている。

◇タイなどが先行
スウェーデンのベトナムビジネス協会の会長で、同国を拠点にする食品輸入業者イーストアジアンフードAB社のディエップ・ヴァン・ティ会長は、「EVFTAによって大部分のベトナム商品の輸入税が引き下げられたことにより、スウェーデン市場では(ベトナム商品の)競争力が増している。対スウェーデンの主要な輸出品である農産物や食品に適用される輸入税は、2020年8月の協定発効と同時にゼロに引き下げられた」と解説する。

スウェーデン・北欧ベトナム貿易事務所のデータによると、スウェーデンへの米輸出国のうち、最近の輸出でプラス成長を維持しているのはベトナムと米国、ノルウェーのみだった。この成果は、ベトナム米の競争力を高めるEVFTAと、北欧地域におけるベトナム貿易事務所の貿易促進活動によるものだ。

ティ氏は、「スウェーデンで長くアジアの主要な食品輸入・卸売業者として務めてきたが、欧州や北欧においてベトナム産農産物の存在感は高まっていると感じる」と述べる。だが、現実には、北欧諸国への輸出にはいくつかの課題がある。

スウェーデンをはじめとする北欧諸国は、国民1人当たりの所得は高いが、人口が少ないため、他の市場に比べて消費者全体の需要は少ない。さらに、地理的に離れているため、ベトナムから北欧への輸送コストが高く、生鮮品の輸入に支障をきたしている。輸入量が少ないために経費がかさみ、輸入業者にとってメリットが少ないのが現状だ。

ティ氏は、「スウェーデンの消費者の多くは、ベトナムの商品がほとんど流通していない時代に、タイなどから輸入された商品の味に慣れ親しんでいる。消費者の嗜好や習慣を変えるのには時間がかかるだろう。その上、ベトナム商品は季節ものが多いため、供給が停滞すると価格も不安定になる」と指摘する。

品質向上や商品の多様化といった企業努力とともに、食の安全を確保し、タイや中国、韓国などの商品と競争できるように、国は農産物に対する農薬の使用や抗生物質の残留物について明確な規制を設けるべきだ、とティ氏は考える。

◇ベトナム商品の流通拠点
スウェーデンのベトナムビジネス協会は、マルメにあるベトナム商品センターへの投資を呼びかけている。このセンターは、ベトナムの商品を大量に輸入し、北欧や欧州諸国へ流通させる拠点となる予定で、今年、同協会はベトナムへチームを派遣し、安定した高品質の供給元を探すとしている。

協会のメンバーには、輸入会社の経営者が多く、彼らはベトナムの商品を優先的に取り扱っている。ティ氏は、「まずはベトナム人コミュニティ、次にアジア人コミュニティ、最後に現地のコミュニティといった流れで、ベトナム商品の販売促進を図っていく。これまでも、多くの種類のベトナム産農産物や食品が輸入され、スウェーデンの主要なスーパーマーケットに流通している」と話す。

ティ氏は言う。「ベトナム企業は、輸出・輸入業者の取り決めに従って、商品の品質と信頼を確保しなければならない。スウェーデンや北欧諸国でベトナム商品の存在感を高めるには、価格が安定し、競争力があることに加え、定期的な供給が確保されなければならない」