スアンカウ村(フンイエン省ヴァンザン県ギアチュ市)には、千年以上の歴史を持つ二つの古い井戸がある。

写真㊤=ハノイから近いスアンカウ村には、古い建築様式の建物が多い

同村は何世紀も前に建てられた古い建物が多く残っており、古風な雰囲気が漂っている。古い建造物の中でも、コンドン井戸とディンバ井戸は特別なものだ。この二つ井戸は千年以上の歴史をもち、埋め立てられたこともあるが、村人の力によって復活した。ベトナムの特徴的な古井戸で、珍しいものであると考えられている。

村の長老によると、二つの井戸はどちらも青みがかった石で作られており、井戸から湧き出る水は一年中冷たく、澄んでいる。井戸は「竜の目」と呼ばれる霊気が集まる村の中心に位置する。歴史学者のレ・ヴァン・ランさんによると、コンドン井戸は推定1200年の歴史がある。一方、ディンバ井戸は1300年以上の歴史がある。


井戸の縁には、丸く青みがかった石が3層に積み重ねられている

長い間、二つの井戸は村を見守ってきた。現在、コンドン井戸は補強され、井戸の上部には小さな祭壇と井戸の歴史を紹介する看板が設置されている。一方、ディンバ井戸は家の庭にあり、コンドン井戸と同じように補強され、慎重に扱われている。毎月15日と村のお祭りの日になると、村人たちはお供え物をこれらの井戸に供える。


ディンバ井戸は村人の家の庭にあり、補強され慎重に守られている

タムキー村の村長、グエン・クアン・フイさんは「1970年代、二つの古井戸は水の供給源だった。誰も井戸がどのくらい深いのか知らないが、井戸の水は一年中透き通っていて、大変美味しい。雨期にどれほどの雨が降ろうと井戸の水が溢れることはなく、日照りの日が続いても井戸が枯れることはない。近隣の村の人々も、二つの井戸から水を汲み上げるために訪れる」と話した。

二つの古井戸にまつわる不思議な話も語り継がれている。かつて、ある人がスアンカウ村に来て物乞いをしたが、熱中症になり気絶してしまった。そこで村の人々が井戸の水を飲ませたところ、不思議なことに、気絶した人は目を覚まし、瞬く間に元気になったという。また、以前、大干ばつに見舞われた時、池は乾燥してひび割れ、畑の井戸も枯れ果てたが、二つの井戸には水が満ちていたという。

不思議な逸話から、村人たちは今も「井戸についての詩」を語り継いでいる。

"井戸のおかげで、私たちの村は存続する
石でできた井戸はずっと昔からある
井戸のおかげで、村には貧しい人がいない
井戸についての歴史を知りたいのなら、私がいつでも教えよう"

この村は「歴史上の人物を多く輩出した村」としても知られている。「烈士」とされるト・ヒウ、ト・チャン、レ・ヴァン・ルオン、画家のト・ゴック・ヴァン、作家のグエン・コン・ホアンらの故郷だ。


井戸は古い石でできている。石には長い歴史を物語るように多くの傷跡が残る

フイさんは「実際に井戸の水のおかげかは分からないが、村人は井戸の水が健康や農産物の収穫、幸運をもたらすと信じている」と話す。現在、二つの井戸は「生活のための水」としては使われておらず、特別な機会にのみ開放される。二つの井戸には今も水が湧き出ており、その水は一年を通して澄んでいる。

都市化の影響により1980年代に一度埋め立てられたが、スアンカウ村の人々が寄付を募り、2013年に二つの井戸が復活した。いずれも古井戸の伝統的な様式が維持されており、埋め立てられる前の面影を残している。