ハノイ市は、安心安全な食材を求める市民らの声に応え、無農薬や減農薬製品などを市場に乗せるサプライチェーン(流通網)の整備に力を入れている。展開されるさまざまな支援のおかげで、農業集団や関連企業の収入が増加しているだけではなく、流通ルートの明確化によって、検査や監視が容易になるなど、行政当局にとっての利点も浮上したという。

◇バリューチェーンを構築
ハノイ市の農業農村開発局がこのほど発表したレポートによると、ハノイ市では現在、133件のハイテク農業の実施例があるという。どれもまだ規模的には小さいものの、経済効率という点では大きな成果を上げている。成功例としては、タックタット地区のホアビエン農園や、ダンフォン地区のダンホアイ農協による蘭栽培、ウンホアやチュオンミー地区での魚のハイテク養殖場などが挙げられる。

これらに加え、ハノイ人民委員会は「2016-2020年 ハノイの食品衛生確保のための動物飼料製品の生産とサプライチェーンの構築」や、高品質米の生産実験など、多くのプロジェクトを承認。市内の安心安全な農産物のサプライチェーンの開発に取り組んでいる。

これまでにハノイで設立され、維持されている無農薬、低農薬や有機栽培などの安心な食品のサプライチェーンは135にのぼる。このうち56件は食肉素材で、残る79件がその他の食品だ。サプライチェーンの構築は多くの企業や農業生産団体、家族経営農場などの参加を誘引し、バーヴィ産の地鶏、ダイタイン産のロウガン(龍眼)、ボイケー産の香り米など、40以上の製品が原産地特産品として保護対象とされている。

ハノイ市植物保護局は、地域ごとに減農薬栽培野菜などの認証を行う参加型認証制度(PGS)を適用し、や野菜、果物やお茶など40品目の安全な食品ブランドを実現している。このうち、35のモデルは、今年認証されたもので、15地区の35の村の農産物が対象とされた。これらの農業協同組合と農家は、栽培方法や農薬の適切な使用や残留成分の検査方法などを徹底して研修を受けさせる。結果的に、このような制度の適用が、悪質な生産者や業者の排除、違反の監視などを容易にしているという。

これまでに208件の企業が、安全な生産物を供給する農業団体と契約を結び、毎日約42トンの農産物が出荷されている。これらの製品は一般の農産物よりも仕入れ時の買い取り価格が高く安定しているため、生産者の収入増につながっている。一方で、仕入れ業者も、顧客に好まれる品ぞろえを積極的に仕入れられるようになった。供給先を安定的に確保できるため、価格変動のリスクにも備えられる利点もある。ハノイ市では現在、バナナ、茶葉、ドンズー産グァバ、カイン産オレンジ、ディエン産のグレープフルーツの5種類の農作物にPSG制度が適用されている。

◇安定した農産物市場を
バリューチェーンには多くの利点があるものの、生産と消費の間の接点がまだ弱いことや、販売契約違反が起こりうるなど、いくつかの問題点が指摘される。市場や製品のブランディングについての生産者の知識も限られていることから、賛同する生産者がまだ限定的で、結果的に、ホテルやレストラン、スーパーなどへの大口の供給が難しいといった課題も残る。

ハノイ市農業農村開発局のグエン・バン・チー副局長は、「市は、このような無農薬や有機栽培の農産物や、『一村一品運動』の対象製品などのPRを行うなど、地域の農家と消費者を結び付け、地域特産品の消費増加を促すさまざまな活動を行っている」と説明する。

一例として、ハノイ投資貿易観光促進センターは、日本の国際協力機構(JICA)の技術協力プロジェクトである「JICAセーフクロップ」の支援を受け、ハノイの安全な農産物を紹介するウェブサイトを開設した。サイトでは、生産者と企業と消費者を結び、安全で高品質な、産地がはっきりとした農産物とその生産者らをハノイの消費者に紹介している。これまでに300の生産者や仕入れ業者、小売店などから40万件の閲覧があるなど重要な情報源となっている。

さらに、ハノイ市は生産から消費までの流通網の開発を支援し、品質管理、製品価値の向上、バリューチェーンの適正利益を監視する。 さらに、農家向けに製品加工やハイテク農業モデルの展開のための事業投資を促進していく方針だ。