メコンデルタの農産物を世界へ グローバル供給チェーンの構築など模索

ベトナムの農業生産の中心地である南部メコンデルタで、自治体や農業団体などが、一帯で生産された農産物の世界的な供給網への参入に力を注いでいる。市場の拡大をねらい、安心安全な食品供給チェーンを構築した農業や漁業を目指そうと、農業従事者らに連携強化を呼びかけている。

◇コメ、果物、魚介類の生産中心地
ベトナム全土の農業面積の約12%に相当する396万ヘクタールの農地を抱えるメコンデルタ。ベトナムにおけるコメや果物、魚介類の一大産地であり、輸出の中心地でもある。だが近年は、気候変動と厳しい悪天候の直撃が生産に響くことも多く、持続可能な農業と気候変動への迅速な適応力が求められている。

メコンデルタ地方輸出促進センターのグエン・ズイ・リン・タオ議長によると、メコンデルタのコメの生産は2400万トン。ベトナムのコメの全生産の約8割を占める。430万トンが生産される果物は、同様に全生産の65%に値する。さらに、エビや白身魚のパンガシウス養殖などを中心とした魚介類生産は400万トンを超え、エビではベトナムの全生産の60%、パンガシウスでは実に95%がメコンデルタ生だという。

このように、農業は、メコンデルタの経済発展で重要な役割を果たしており、同地方の各省や地域自治体で、農業の再構築の模索が促されているのだ。

具体例を挙げると、ドンタップ省では、コメ、花卉、マンゴー、パンガシウスを主要農産物に定め、優先的に投資を行っている。コストを削減しつつ商品の品質を向上させるために、農産物の生産手法は改善を重ねられており、市場を中心とした連携と協力も強化されている。ハイテク技術を利用した農園や、「スマート農業」のモデル事業などが新たな農業展開として注目されており、2020年には、省内の農産物の生産価値が前年より5080億ドンも多い13兆1700億ドンに増加する実績も挙げている。

◇基準厳格化で世界に通用する農産品を
生産規模だけでなく、品質の確保にも余念がない。メコンデルタの中心都市であるカントー市では、約3万ヘクタールの水田で大規模な稲作に乗り出しているが、このうち、100ヘクタールの水田は、食品安全や環境保護などに配慮した世界基準の農業認証「グローバルGAP」に適合している。さらに同市は、農薬削減などに配慮した野菜の生産面積を229ヘクタールにまで拡大し、年間約2万8390トンを生産している。10.5ヘクタールの畑は、ベトナム版農業認証「ベトGAP」に適合したものだ。

同市は、果物の生産でも独自ブランドを生み出し、7984ヘクタールの集中生産地域などを形成するにとどまらず、生産者に小売りチェーン店などと連携するよう働きかけ、堅固な食品供給網の形成を促している。これまでに、カントー市では、59の供給チェーンがつくられ、259の農産物が「カントー産」として承認されている。これらの生産者らはすべて、小売り流通店との間で正式な契約を結んで、国内市場や海外輸出向けに販売されている。

アンザン省では、62万5000ヘクタールの水田でコメ作りを展開しているほか、野菜の畑は5万4700ヘクタール、果樹園は1万8000ヘクタールに及ぶ。また魚介類の養殖生産量は年間約53万2000トンに達する。同省でも、より品質が高く収穫量が多い農作物の栽培や、ベトGAP基準を順守した生産、ハイテク技術の農業応用などが奨励されている。

◇目指すは世界的供給チェーンへの参入
グローバリゼーションと国際化、気候変動などが、現在のメコンデルタの農業の課題だ。特に、輸出品の大部分が未加工の原材料であることや、農産物のほとんどが原産地表示を取得できていないことなどが大きな問題となっている。さらに、生産規模が小さく、分断されており、農産物の一貫性にも乏しい点も指摘される。加えて、農作物の保存と加工段階で科学技術が応用されえいないことも、品質の劣化や競争力のなさを招く一因だ。

在ベトナムヨーロッパ商工会議所(EuroCham)のグエン・ハイ・ミン副会頭は、ヨーロッパを筆頭にした輸出先市場が、厳しい農業基準や生産地をたどれる「トレーサビリティ」の実現▽厳しい検疫と衛生基準の順守▽持続可能な開発の実行―などを要求している点を指摘。「ベトナムの企業がこれらの基準を満たすことができれば、欧州市場におけるベトナムの存在感をより堅固なものにすることができ、ベトナム産の食料品供給網の価値を大きく上げることができるだろう」と期待を寄せる。

メコンデルタの省や市当局は、一帯に投資を呼び込み、環境保護と同時に持続可能な農業経済圏を発展させることを優先している。同時に、インフラ整備と人材育成にも力を注ぐ。さらに、メコンデルタの13の省と市は、ベトナム政府に対して、各省・市が相互連携し、一帯の最大都市ホーチミン市とも協力したかたちでインフラを整備するだけでなく、「一帯の整備に向けた国家規模での目標達成計画を企画すべきだ」と求めている。また、国際的な気候変動の研究施設のメコンデルタへの誘致も模索する。

ベトナム商工省貿易促進局のブー・バー・フー局長は、「農産物輸出に重点を置いた農業関連ビジネスの支援と貿易促進の活動の質を向上させるためには、メコンデルタはまず、農業の発展に不可欠な、情報技術の応用やデジタル変革の分野での戦略的目標を立てる必要がある」と指摘する。地方自治体はデジタル化されたエコシステムの完成や、急成長を見せる農産物の産地などを瞬時に伝えられるトレーサビリティを実現するためのエリアコード構築などに焦点を当てるべきだというのが、貿易促進局の考えだ。農産物や農業事業のブランド化の実現も、貿易促進のための活動と並行して推し進めるべきだとしている。