リズミカルな音楽にのせて古代の神々の伝説を歌い上げるチャウ・バンは、北部の自然崇拝や伝統信仰にルーツを持つ民謡だ。約500年の歴史を有し、国の無形文化遺産に登録されている。人々を幽玄の世界に誘うベトナムの祈りの音楽を紹介しよう。

チャウ・バンは、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている伝統信仰「三府聖母崇拝」の儀礼として、寺院で披露されることが多い。ベトナム音楽家協会の副会長で古代音楽の研究科、チャオ・ジャン教授によると、16世紀に北部デルタ地帯の黎朝で誕生。曲や衣装には北部デルタ地方固有の特徴が多くみられるという。

「クン・バン」と呼ばれる歌い手は、神を呼び寄せる巫女役の「ハウ・ドン」を伴って登場し、邪気を払うために火を使って場の空気を浄化。続いて三味線に似た弦楽器、ダン・グエットの演奏に合わせて竹をたたくなどしてリズムをとり、災害や疫病から人々を守る神や聖人、英雄の伝説を歌い上げる。演奏は長いときには4時間にもおよび、リズムに富む音楽と抑揚のある歌声で聴衆を、古代の神々の世界へと導く。

1986年以前のベトナムでは、チャウ・バンをはじめとする宗教的表は禁止されていたが、近年は若い世代から再評価されつつあるという。