洪水を逆手に収入増を 国際自然保護連合、メコンデルタで支援展開

世界的な気候変動の影響による自然災害の深刻化を受け、国際自然保護連合(IUCN)のベトナム支部はこのほど、洪水の発生を前提に、被災地域で暮らす人々の生活の支援と向上を目指すプロジェクトが導入されている。メコンデルタ東部のロンアン省、アンザン省などの洪水多発地帯が対象地域で、4年計画でさまざまな洪水対策が策定されている。

◇収入の改善
プロジェクトは、米コカ・コーラ基金による資金提供で、2018年に始まった。洪水多発の状況下では継続が難しい従来のコメの三期作に代わる事業を導入することで、メコンデルタ地域の農業従事者が少ない資金投資で、リスクの低い安定した生活ができるよう、訓練や支援を提供する。環境保護や生物多様性の保全を実現しつつ、農家の収入アップを目指すというのがねらいだ。

洪水の発生を前提とした生活モデルの成功例の一つに、ハスを活用したエコツアーの実例がある。魚の養殖、稲作にハス栽培を組み合わせて行うもので、洪水の時期はハス池を観光スポットにするという。同様に、稲作と魚の養殖、野菜の栽培を組み合わせた実例もある。プロジェクトは洪水や増水に見舞われている約450ヘクタールの土地で生計を維持している人々が対象で、洪水が発生しても、年間約670万立方メートル分の水分保持能力を保つことができ、洪水後の回復も容易になるという。

さらに、対象面積を拡大できれば、2000~2011年の約10年間に、水害によって失われた約40億立方メートル分の保水力の一部を、回復できる見込みだ。

メコンデルタで実施区域の拡大を期待した国際自然保護連合は、先月12日、プロジェクト関係者に限定して、オンライン会議の形式でワークショップを開催し、これまでの結果の評価や分析などを行った。

ワークショップでは、国際自然保護連合道南アジア地域のアンドリュー・ワイアット副代表が、アンザン省やドンタップ省、ロンアン省などのメコンデルタ地域で、2018年からの3年間展開されてきたプロジェクト内容について説明した。

プロジェクトの一環としては、農業従事者に対して、リスクや難易度は比較的低く、利益率が高い事業を開拓したり、実施したりすることを目指す訓練が提供された。これらの事業は豊富な水を利用する農業関連事業もあれば、陸上で別の職業技術を身につけるという訓練もある。これらがうまくいけば、洪水の多い雨季になっても、農業従事者らは従来の倍以上の収入を得ることができる。すでに3つの省の15カ所で訓練が始まっており、1000人以上の農業従事者が16種類の訓練コースを受講している。

◇有効なモデルの実施対象を拡大へ
ベトナム農業農村開発省によると、洪水地域の生活向上を図る多くの実験的なモデルが効果的で、しかも継続的に実施できものだという。さらには洪水による環境破壊を食い止め、損害を回復させられる可能性も判明しているため、「多くの農業従事者だけでなく、農業関連企業や各地の地域当局担当者などもこれらのプロジェクト導入を歓迎している」と評価した。

アンザン省のタンタイン農業協同組合やドンタップ省のタンキエウ農業協同組合は、地元生産の農産物を原材料として購入するよう、地元企業を説得した。また、アンザン省の一部の企業はプロジェクトのもとで栽培されたハスを購入するようになった。食品加工のロックチョイ・グループは、プロジェクト対象となっているロンアン省の洪水多発地域の農家から、原材料のコメを仕入れるようになった。

ロンアン省タンフン地区人民委員会は、洪水時期の栽培に適した「浮きイネ」の栽培面積の拡大を計画していると話す。また、ランセン湿地保護区では、住民が栽培したハスを線維化して絹のような布を織りあげる技術を開発し、住民らにその織り方を伝承している=写真㊦。

ドンタップ省タップムオイ地区の農協では、洪水に順応しようと努力する住民らに、資金の援助を行っている。

これらの実例はいずれも農家の収入増加につながっているだけではなく、洪水被害に直面する地域の自然資源の回復にも効果的で、塩害の被害を受けない真水の確保と貯水能力の向上につながっている。洪水がもたらす沈泥(シルト)は土地の肥沃度を増し、乾季の肥料や殺虫剤などの使用を最低限まで減らすことができ、農作物の疫病も減らせるなどのメリットも見つかっている。さらには、多様な水生生物がこれらの地域で生息できるようになり、生物多様性の保全や農業環境での生態系維持につながるなど、人間の生活改善と並行して自然環境の保存維持も期待できる。

国際自然保護連合は、今後もさまざまな機関や団体と提携していく考えだ。さらに、洪水地域の生活圏改善モデルの実例を増やせるよう、政府や資金提供者、民間企業など関係する団体や個人に対して支援を求めるほか、さらに高度な技術の導入や資金の投入を促していくという。