電子廃棄物管理法令で草案めぐり反発も 天然資源環境省が企業と意見交換 

製造した企業や輸入業者に製品の廃棄時の処理責任を課す「拡大生産者責任(EPR)」に踏み込んだ環境保護法が2020年、ベトナムでも発効した。これに基づき、天然資源環境省が、電子機器のリサイクルや廃棄を具体的に企業に促す電子廃棄物管理法令の草案を提出したところ、その内容に、企業側から、多くの注文や反発の声が上がっているという。

天然資源環境省によると、ベトナムにおける固形廃棄物のうち、電子系の廃棄物が占める割合は2%でしかないが、国内で適切に処理されず問題となっている「有害廃棄物」でみると、その割合は約7割にものぼるという。

現在、ベトナムにおける不要となった家庭の電気製品や電子機器などの廃棄物は、古物商や修理店などを通じて収集されているケースがほとんどだ。それらはバクニン省やフンイエン省などにある廃品リサイクルに特化した専業村へと運ばれる。そこで廃棄物が解体され、再利用できるパーツのみが取り出されると、利用価値のない部品などは通りや河川敷などに、未処理のまま放置されている。このような行為が、将来的に土壌や水の汚染を引き起こすことにつながると懸念されたことが、法整備を求める声につながった。

ベトナムにおける拡大生産者責任の考えが浸透すれば、固形の廃棄物やゴミなどで生じる環境汚染や廃棄物管理が改善され、資源の再活用が加速するとの期待が高まっている。

そのねらいで提出された廃棄物処理の実施の法令草案だが、民間での議論を深めようと、天然資源環境省が世界銀行グループの一員で途上国の民間部門の発展促進を行う国際金融公社(IFC)の協力を得てオンライン形式の公開セミナーを開催したところ、企業側からは多くの意見や注文が上がったのだという。

ICTスタンディング・グループのベトナム代表であるリム・ブンピン氏は、冷蔵庫に含まれるフロンガスをはじめとした家電や電子機器に含まれる有害成分に対して特定の処理行動を課すなど、具体的な規制が必要だと主張。「現法令案のままでは、現実的に機能しない」として、製品をグループ分けし、グループごとに収集を行うための具体策の策定を求めた。

また、日系企業のキヤノン・ベトナム社は、「法令案のなかで、どの企業が、どのような特殊技術を用いて、どの製品を処理してよいのか、明確に規定される必要がある」と指摘した。また、ベトナムの拡大生産者責任事務所など第三者による製品品質保証の義務付けが盛り込まれた点には強く反発し、「実施が困難であるだけでなく、企業の競争の自由を侵すものだ」と主張した。

ほかにも、法令草案については、セミナーの参加企業から、環境保護基金への寄付を疑問視する指摘などがあった。そのほか、廃棄物収集とリサイクルの割合をどうするのか▽製品分類の詳細▽回収や処理のコストの負担▽法令の実施に向けたロードマップのありかた-なども議論のテーマに上がり、政府の思惑と企業の考えの不一致が浮き彫りになった。

だが、拡大生産者責任の考え方の導入そのものの可否については、ベトナムにおける家電や電子系の廃棄物の処理改善に大きく役立つという点などが評価され、天然資源省と企業の間で幅広い合意が得られた。同時に、廃棄処理を念頭に置くことで、企業が環境に配慮した製造に向けて継続的に改革を進めるようになり、グローバルサプライチェーンにおける競争上の優位性を高めることにつながるなどの利点でも、考えが一致した。

国際金融公社が、環境保護の側面を担うベトナムの行政当局と協力するのは、今回が初めて。同公社東南アジア支部のパラミタ・ダスグプタ市場創造担当マネジャーは、「天然資源省の提出した法令草案をもとにしつつ、企業の声を盛り込んで、製造業者の責任に対処する規制を考えていく必要がある」として、企業側と行政の歩み寄りを促した。