人口の約70%が農業従事者であるベトナムの経済において、農業は重要な役割を果たす。そのなかで、ベトナム政府は、収穫量を増やし、高品質で多様な農作物を生産でき、さらには収穫後の農産物をよりよく長く保存できる手法の一つとして、放射線技術の農業応用に注目。放射線技術による遺伝子組み換え植物の作付面積の引き上げも検討している。

実用化つぎつぎと
放射線照射による遺伝子変異で新品種を作り出す技術は、ベトナムでは1970年代から研究が進められ、実用化されてきた。国際原子力機構(IAEA)の助力を得て、南ベトナム農業研究所、メコンデルタ稲研究所、ホーチミン照射センター、ダラト原子力研究所などが、この分野の研究と実用化の促進に尽力してきたものだ。

2000年から2008年にかけて、ベトナムは「VIE5015プロジェクト」(放射線と関連技術の応用による稲の突然変異体の品質と収穫高改良、フェーズⅠ‐Ⅱ)に参加した。続く09年-13年は、輸出用ドラゴンフルーツにつく害虫駆除に関連するVIE5017 プロジェクトに加わり、現在は、15年までの1年間でVIE5018 の「主要栽培地域において、気候変動に対抗し、窒素をより効率よく利用する放射線照射による新種農産物の作成」のプロジェクトを展開している。それぞれのプロジェクトは、寄付による基金が設けられ、1件当たり年間約10万ユーロの予算が割り当てられた。

これに加えて、ベトナムはさまざまな放射線応用に関する地域協力協定に参加してきた。そのなかには、「土壌の肥沃性の回復と農業生産性維持」や「食料安全保障、安全、貿易のための食品照射実施」、「先住民の手法を活用した家畜生産性の向上と環境保全のアプローチ」などのプロジェクトがある。

高い効率化
これらの協力によって、ベトナムはガンマー線の放射を活用し、さまざまな品種の遺伝子組み換え米を作ることができた。これらの品種は育成機関が短いのに収穫量が多く、高い品質を備え、害虫ややせた土壌、悪天候などへの耐性も高く、農作物の生産量増強のため、政府は作付面積を増やすことを検討中だ。

たとえば、DT10 と呼ばれる品種は冷害に強く、塩分濃度の高い土や酸性土にも耐え、1ヘクタールあたり平均5500-6000キログラムの収穫量が見込める。この品種は、北部地域で約100万ヘクタールで生産されている。塩に強いVND95-20 は、ベトナムの米輸出政策で定められている5種類定の主要生産品種のひとつだ。 メコンデルタ地域においては、100万カ所の水田の約30%にあたる場所で生産されている。VND99-3という品種の米も、約100日と短期間での収穫ができ、三毛作が可能になることから、輸出に向いている稲のひとつだ。

科学技術省傘下のベトナム放射線・原子力安全庁(VARANS)によると、これらの新品種米がもたらした社会的・経済的利益は、大変高かったという。1990年代に作り出されたDT10 という品種の場合、これまでの総収入額は30億ドルにのぼり、300万軒の農家がこの品種を栽培することから恩恵を受けた。もうひとつ、2007年に登場したカン・ダン(Khang Dan)種の米も、 今ではベトナムで生産されるなかでも重要な米の品種のひとつとなっている。ベトナムでは毎年約4300万トンの米を生産しており、このうち600万トンが輸出され、約30億ドルの外貨を稼いでいるが、これも放射線技術が大きく寄与しているのだ。

稲作に加えて、現在では栽培地の約50%で、遺伝子組み換え大豆が栽培されている。また、ベトナム農業科学アカデミー(VAAS)は、ドラゴンフルーツなどへの放射線照射による害虫駆除モデルも確立させ、果物の輸出増加に貢献するなど、その応用範囲は拡大している。IAEAによれば、ベトナムは遺伝子突然変異による新品種開発の研究分野で、世界第8位に位地するという。