アルコール摂取急増でベトナムの健康被害が社会問題化

ベトナム人1人当たりの年間アルコール摂取量は8.7リットルで、東南アジア諸国で最も多いことが、世界保健機構(WHO)の調査でわかった。保健省傘下の保健計画政策院のヴー・ミン・ハン次長は「ベトナムではアルコールの過度の摂取が深刻な社会問題となっている」と警鐘を鳴らす。

ベトナム国民がワインやビール、清酒類などに費やす金額は、年間数十億ドンにのぼる。一部には、ベトナムの年間アルコール総消費量が30億リットルに達するとした統計予測もある。

WHOは飲酒などの生活習慣と病気の関連性調査に基づき、ビールやワイン、その他のアルコール類を30種の病気の直接原因とした。間接的な因果関係のある病気に至っては、その数は200を超える。

全世界的にみても、アルコールの多量摂取は死因の上位10位に入り、病気やケガの5.1%がアルコールに起因するものだとWHOは結論付けている。西洋諸国ではこの率が8.8%であるのに比べれば、ベトナムは4.5%で数値は控えめではあるが、「それでも、ベトナムでアルコールの多量摂取が増えていることは間違いない」とハン次長は懸念を示す。

アルコールに起因するケガのうち、交通事故によるものや酒がらみの暴力沙汰、自殺、致命的な重傷などは、比較的若い世代で見られることが多い。

加えて、飲酒に起因する軽率な性的関係によるHIVウイルスなどのへ感染も問題視されている。また、妊婦によるアルコール消費と、胎児性アルコール症候群や早産、出産時の合併症などの関連性も指摘されている。

これらの問題が表面化するにつれ、ベトナムはアルコール起因の健康被害患者に対する治療費の増加と、その負担の増加による社会経済の悪化といった悪循環に悩まされることが予測される。医療の進歩は目覚ましいが、アルコールを摂取していればこれに起因するがんなどの健康被害を逃れることは困難で、アルコール中毒の予防や病気の早期発見が重要となる。

このため、ベトナム政府は保健省に、「ビール・アルコール被害の予防に関する法律」の制定準備を許可した。ハン次長によると、同法は今年末までには国会に提出の予定という。

この法案では、他の国々と同様にベトナムも、アルコールの弊害を低減するための公共施策の策定や施行、社会監視の責任を政府が持つと同時に、アルコール飲料の行き過ぎた販売戦略の規制や、アルコールの購入方法の制限といった案も検討している。

その他、飲酒後の運転制限の制定、アルコールへの課税や価格設定などで需要を抑制する、アルコール摂取がもたらす弊害や公衆の健康問題などについて社会的に注意喚起を促す-などの対策も検討。一方で、治療費抑制の部分では、「アルコール中毒者が早期から受けることができ、費用負担も少なくて済むような治療の提供も検討する」と、ハン次長は言う。

アルコール摂取の規制は、教育水準や文化的背景、ジェンダー、収入、アルコール入手の容易度などはもちろん、アルコール関連施策の効果的な適用などともからみ、大変複雑な問題だ。だが、ベトナムではまだこれらの対策費用は非常に限られており、アルコールの危険性を市民に啓発するための資材や情報が乏しいことが課題となっている。