政府、電子決済を推奨 2020年までに全取引の50%目標

ベトナム政府は、さまざまな商取引の決済で、現金ではなく電子的な手法での決済を推奨している。2020年までに、全取引の約50%をカードなど、現金以外での決済方法に転換するのが目標という。

オンラインショッピングやインターネットバンキングなどの急速な成長を受けたものだが、専門家らからは安全性の確保やインフラ整備の必要性が指摘されている。

◇電子決済、総額約100億ドルに
政府の想定では、2020年までに人口の約30%がオンラインショッピングを利用、年間約350ドルの買い物をするようになるとみている。そこで、個人向け電子商取引(B2C)による売上高で、現在の約20%増の総額約100億ドル、または、ベトナムの小売とサービスの総売上の約5%の、いずれかの到達を目指す計画だ。

その手初めとして、全スーパーマーケット・ショッピングモールやコンビニエンスストアでのクレジットカード支払いの受け付けを実現。また、通信会社や電力会社、水道会社などでは70%顧客からの電子決済を受け入れる予定だ。これにより、大都市圏などを中心に、全決済の約50%がオンラインによる電子決済になることを目指す。

政府による公共事業の支払いや入札なども、100%オンラインでの取引に転換していく考えだ。契約を進めるプロセスの詳細についても、国家の入札ウェブサイトで公開していく。

ベトナムでは現在、モバイルを活用した銀行口座の管理システムが増えており、複数の銀行幹部らは、「全決済の約50%をオンラインでの電子決済にするという目標も、近々達成されるだろう」と楽観視している。

電子商取引・信技術局によると、昨年のベトナムでのインターネットユーザーは4800万人で、スマートフォン(スマホ)の所有も3500万人にのぼった。

同局の電子商取引指標レポートによると、昨年、スマホユーザーの約27%がスマホを使って買い物をしており、そのほとんどが銀行口座からの引き落としを利用して支払いを行っていた。また、スマホを利用して、1日1回以上、買い物の情報収集をしている消費者も全体の45%に達していた。

ベトナムは現在、スマホ市場が世界でももっとも急速に成長している国のトップ5カ国に入る。その普及にともない、モバイル機器を利用したさまざまな決済方法も急速に発展している。ベトナムでは現在、45の銀行がSMSバンキングやインターネットバンキングを開設。25行はスマホなどを使ったモバイルバンキングの運用も始めている。

一方で、カード市場の目覚ましい成長もまた、現金以外での決済の増加傾向を象徴している。ベトナム銀行カード協会の統計によると、2015年までに発行されたカード類は8200万枚に及び、この90%は現金自動預払機(ATM)用のものだった。カード枚数の増加につれ、利用額もまた急激に増えている。

だが、専門家らの間からは「支払いを現金からカードや電子決済に切り替えて、商取引全体の50%を達成する」という銀行幹部らの目標に懐疑的な声も聞こえてくる。

銀行業界に詳しいアナリストのヒュン・チュン・ミン氏は、「目標は楽観的すぎる。実際には、達成はかなり難しいだろう」と分析。「現状ではまだインフラ整備が十分ではなく、法的枠組みも限定されている。そのうえベトナムの人々の現金利用の商習慣は根強く、カード支払いに手間賃を上乗せしたりしている店もあるといった状況が足かせとなるだろう」と反論する。

またミン氏は、「政府が現金以外での支払いを加速させたいのであれば、インフラ整備を進める以外に、まずは政府自身が電子決済の最大のユーザーとなる必要がある。税金納入などのさまざまな公共サービス費の支払いが現金以外のかたちで行えるよう、率先して制度を変えていかなくてはならない」と指摘する。

◇安全性追求しながら利便性も向上
インターネットバンキングなどの電子決済は、それらを使うことへの利用者の不安をぬぐうことができれば、強大なポテンシャルを秘めているとみられる。

だが、ベトナムコンピューター協会のグエン・ディン・タン副会長は「電子商取引を考える企業は、スマホなどのモバイル機器の重要性を認識しておらず、対応もまだ十分ではない」と話す。スマホを利用して商品を注文した消費者は1130万人にものぼるのに、モバイルに対応したサイトを設けているのはその15%に過ぎないというのが実情だ。

また、購入者はオンライン購入に対して、いまだに商品の品質と個人情報などの安全性に懐疑的なままだ。2015年の「電子商取引指数」では、オンラインによる決済で求められるインフラ整備とサービスは、「消費者が満足するレベルに達していない」と指摘されている。

また、銀行がカードを年間数100万枚も発行しているものの、利用できる商店が大都市圏に集中している点も指摘されており、カードの利便性を十分に行かせるインフラ環境が全国的に確保することが目標達成のための課題のひとつとなりそうだ。