昨年末、ベトナムの伝統的信仰であり民族の文化や生活と密接にかかわってきた「ベトナム人の三府の聖母崇拝(マウタムフー=母三府、Mẫu Tam phủ)」がユネスコの世界無形文化遺産に登録された。


登録の発表を見守るベトナムの関係者ら

昨年12月、エチオピアのアジスアベバ市で開かれたユネスコの会議で、「マウタムフー(母三府)」はユネスコに登録されたベトナムの11番目の無形文化遺産となった。「文化的な遺産と地域的な習慣を結ぶ精神的絆の形成に大きく貢献した」ことが登録の理由として挙げられた。

長い歴史を持つマウタムフーの崇拝は、ベトナムに広く伝わる民族的信仰で、「三府聖母道信仰」などとも呼ばれる。慈悲と寛容の象徴である三府(3人の聖母)を敬う聖母崇拝が、先史時代からの自然崇拝や聖道教、仏教や少数民族のもつ宗教などと混ざって形成されていった。ベトナム人の健康や希望などについての考え方、幸福観などの精神性が色濃く反映されており、ベトナム人の心のよりどころとなっている。

また、マウタムフーはベトナム各地に神殿があり、彫刻や建築、音楽、舞踊などの多様な文化的、芸術的要素が含まれる。霊媒師や祈祷師によるさまざまな儀式なども特徴で、宗教政策によって一時期は禁止されていたが、現在では復活し、ベトナム全土で広く行われているという。


ユネスコ登録を喜ぶ関係者ら

ベトナム各地の少数民族の民族文化や信仰が融合したマウタムフーは、ベトナムの多文化、多民族共生の象徴でもある。関係者らは、ユネスコ登録を受けて、マウタムフーの文化遺産がベトナムの各民族に共有され、広く実践されることや、世界に伝わることでベトナムの文化的多様性や創造性がより高まると期待している。

≪これまでに登録されたベトナムの無形文化遺産≫
①グエン王朝の音楽(フエの宮廷雅楽、2003年)
②中部・タイグエン高原の銅鑼(ゴング)の文化的空間(2005年)
③ベトナム北部の伝統民謡「カチュー」(2009)
④ クアンホ民謡(2009)
⑤ソック寺とフードン寺のゾン祭り(2010)
⑥ベトナム北部フート省のスアン民謡(2011)
⑦フート省のフン王祭り(2012)
⑧ベトナム南部の伝統民謡「ドンカータイトゥ」(2013)
⑨中部ゲティン省の民謡「ビー」と「ザム」
⑩綱引きの儀礼祭事(2015、韓国、カンボジア、フィリピンとの共同登録)