妊産婦向けの初の「栄養学的ガイドライン」制定 情報発信などに活用

ベトナム保健省はこのほど、栄養や食生活に配慮する必要性などを盛り込んだ「妊婦と授乳中の母親のための栄養学的ガイドライン」を制定した。学術的ガイドラインの制定はベトナムでは初めてで、現場に適切に情報を提供し、出産適齢期のベトナム女性らの母子の健康促進などを目指すという。

近年、ベトナム人の栄養状態は大きく改善されている。特に、5歳未満の子どもの栄養失調は減少し続け、国連のミレニアム開発目標(MDGs)の母子健康分野でも、「状況が大きく改善された国」となった。

しかしながら、ベトナムはまだ健康保健面で、2つの重荷を背負っている。ひとつは、栄養の偏りや不健全な食生活に起因する心臓・血管の疾患、糖尿病、代謝障害などの慢性疾患の増加傾向。そして、もうひとつが、妊婦や授乳する母親らの栄養などに関する情報の発信不足だった。

多くの研究で、妊婦の栄養状態が胎児の発展に大きく影響することがわかってきている。また、妊娠中の栄養の不足や偏りによって産科合併症がひき起されたり、低体重児出生などの出産時のリスクが高まったりすることが指摘されている。また、授乳期の母親の栄養摂取も、子どもの健康に大きなインパクトを与える。

現状では、妊婦や授乳期の母親らの栄養学的な意識や関心のなさ、知識や情報の伝達不足などによって、妊婦や授乳中の母親の栄養の偏りや、喫煙、飲酒といった不適切な習慣などが指摘されている。

保健衛生分野に携わる職員でも十分に最新の知識が得られているとはいえない。そのため、専門家であるはずの医師や助産師、看護士らが、妊産婦や母親らに適切なアドバイスをしたり、食生活や習慣などの改善を効率的に行ったりすることができずにいるという。

このような課題の解決のために、保健省が制定したのが「妊婦と授乳中の母親のための栄養学的ガイドライン」だ。科学者や、産婦人科学、小児科学、栄養基準などの分野の研究者および教育者、学生ら学術分野の人材に加えて、妊産婦や授乳する女性らと多く接する現場の産科医や助産師、看護士らにも、栄養学や妊産婦の健康に関する最新の知識や情報の浸透を図っていくねらいがある。

ガイドラインは、技術面や財政面で米国の大手製薬会社、アボット・ラボラトリーズの支援を受け、栄養学や産科、婦人科、小児科の分野の第一人者である大学教授や医師らによってまとめられた。

保健省は今後、ハノイ市やホーチミン市、ダナン市で、このガイドラインを普及させるためのワークショップを開催していく予定だ。妊婦や授乳中の母親の栄養状態を改善するため、これらの女性にもっとも身近な存在である保健師ら向けのトレーニングも実施する。

会見でガイドラインの制定を発表した保健省母子健康局のグエン・ズック・ビン局長は、「ガイドラインは、保健省が展開する『2011-2020年の栄養学的国家戦略と2030年に向けたビジョン』を実現させるための現実に即した有益な活動で、先般、グエン・スアン・フック首相に承認された」と報告した=写真

アボット・ベトナム社のダグラス・クオ・ゼネラルマネジャーは「わが社の科学的知識や財源が、ベトナムの妊婦や授乳期の母親らの健康と、このガイドラインの支援に貢献できることを誇りに思う」とあいさつ。妊産婦や児童らの診断や相談にあたる医師や保健福祉分野の関係者らにとって、ガイドラインが有益な役割を果たすことを指摘したうえで「同時に、ベトナムの子どもたちの長期的な栄養状態の改善にとっても、大きな転換期となるだろう」と期待を述べた。