ベトナムで初の緑化プロジェクトが進められてから約10年にもなるが、緑化の進展では他国と比べ後れをとっている。エネルギー利用の効率化、環境の保護、地球規模での気候変動などに対応するため、いかに都市開発と並行していかに緑を保護し増やすかが、ベトナム発展の最優先事項の一つとなっている。

遅々とした進展
ベトナムの緑化や自然に配慮したいわゆる「グリーン開発」が遅々として進んでいない現状について、先日、首都ハノイで開催された業界関係者や専門家らが参加した「建築と緑化の促進セミナー」で報告された。それによると、この10年間で、自然配慮型の地域開発案件が隣国マレーシアでは125件、台湾では500件、シンガポールでは1200件もあったのに対して、ベトナムでは10年間でわずかに60件を数えただけだったという。

ベトナム不動産協会(VNREA)のグエン・チャン・ナム会長は、セミナーで「ベトナムでは、自然に配慮した建築や開発が正当な評価を得ていないことが問題だ」と指摘した。

建築会社、キャピタル・ハウス・グループ傘下のグリーン・ビルディングのチン・トゥン・バック社長によると、その理由は「ほとんどの不動産投資家やバイヤーが、自然配慮型の土地開発の根本的なコンセプトを誤解していることだ」と話す。

第1が「自然配慮型」となるには、建物敷地内に多数の樹木の植樹が必要だという誤解、そして、2つ目がこのような物件の建設費が非常に高額であり、豪華物件でなければ収益が得られない、という偏見だ。

「多くの投資家が、自然配慮型の開発プロジェクトは、従来の建物案件より10~30%も初期投資の費用が膨らむと考えている。だが、これは大きな誤解だ。これが、ベトナムでグリーン開発やグリーン建築が増えない要因だ」とバック社長は指摘する

海外援助を担う米国の政府組織、アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)の「ベトナム自然エネルギー計画」によると、自然に配慮し、自然を生かしたグリーン物件を増やすことができれば、ベトナムは追加の投資を一切かけずに今後50%もの省エネを実現できると試算している。このような建築物の最大の利点は、多少初期投資がかかっても、投資全体の80%以上を占める運用コストを省エネによって大きく削減できることだ。

また、建築家でベトナム都市計画発展協会会長のチャン・ゴック・チン氏は、建築デザインの側面からも、自然に溶け込むよう配慮が不十分だと指摘する。

より迅速な行動を
ベトナム不動産協会は現在、2022年までベトナムにおける自然に配慮したグリーン建築の発展促進プロジェクトに力を注いでいる。このプロジェクトでは、社会や企業向けにグリーン建築の情報発信や啓蒙、専門家の育成、緑化や省エネに貢献する企業や製品の表彰などを展開していく予定だ。これにより、企業や不動産業界が、自然に配慮した物件や省エネにつながる建築などを増やしていくことにつながると期待される。

VNREAのナム会長によると、ベトナムで住宅1平方メートル当たりの電力消費量が年間100kWh以上となる「都市化率」を図ると、最近では全体の約36%にものぼるという。このため、「効率的なエネルギー使用が、コストの削減につながり、健康的な生活環境を創出する」と指摘、さまざまな緑化計画を加速する必要性を強調した。

このセミナーの枠組みで、VNREAは今後5年間わたり自然に配慮した「グリーン建築」の開発に取り組んでいく企業などとさまざまな協定を締結。キャピタル・ハウス社は、緑化計画の先駆者として、今後5年間で100万ドルの資金を調達し、プロジェクトを実現していくことなどを約束している。今後さらに緑化を加速させるため、政府、省庁、地方自治体が相互に連携し、同様の開発を促進するための法的整備などで協力を急ぐ必要がありそうだ。