ベトナムでは最近、安くても安全でない食品には「NO」を突き付ける消費者が増えた。このような需要に応じるために、企業が切り札として注目したのが、農薬などを使用せずに栽培するオーガニック認証の農産物だ。品質がよく、身体への悪影響の心配が少ない、と理想的ではあるが、まだ市場開拓や販売促進、認知度などの課題も多い。

写真㊤=コープマートで販売されているオーガニック野菜=ホーチミン市

ホーチミン栄養学センターの専門家らによると、「オーガニック認証製品」は、一定の農薬や化学肥料を使わずに栽培された厳選された原材料を使い、さらに厳しい製造基準などに則って製造された商品をさす。品質を保証するために定期的に第3者機関などによる製造認証を受けることなども義務付けられている。

最近では、ホーチミン市をはじめとする大都市の大手小売店やその他の小売り販売網でオーガニック製品の基準を満たしたさまざまな製品が売られるようになった。

ホーチミン市13区のグエン・チー・ミン・カイ通りやグエンディンチュー通り、ハイバーチュン通りやヴォーチーサウ通りなどでは、有機栽の野菜などの生鮮食料品を扱う店も建ち並ぶ。有機栽培野菜は通常の野菜に比べるとはるかに値段が高いが、食べ物にこだわる富裕層など、一定の固定購買層を獲得している。

有機栽培野菜などを扱う小売販売会社、オーガニカ社マネジャーのグエン・チー・ホアイ・チャンさんによると、同社はホーチミンに3店、ダナンに1店舗を展開。今後はハノイやベトナム北部へも進出する計画があるという。チャンさんは、「弊社で扱う製品は、海外の認証機関が公正に認証している商品ばかり。高めの価格にもかかわらず、消費者の信頼を得ることができている」と自信を見せる。

サイゴン・コープ、タイン・タイン・コンなどのベトナム流通大手や、ビナミルク、ビナミットといった大手食品メーカーもこの分野に注目しており、オーガニック製品の製造開発には多額の資本投資をしている。

小売り大手、サイゴン・コープのファム・チュン・キエン副社長によると、同社は「ホア・スア」ブランドでオーガニック米を精製販売するビェンフー社と提携し、メコンデルタ地方カマウ省に300ヘクタール以上の農園整備を行った。この農園で生産された農産物は、アメリカ合衆国農務省や日本、欧州連合などのオーガニック基準のほか、ドイツの民間オーガニック認証機関、ナトゥアラント(Naturland)などの基準を満たしているという。

乳業大手のビナミルクは、今年上半期、ラムドン省に欧州基準を満たす初めての乳牛飼育施設の運用を始めた。その総投資額は2000億ドンにのぼる。76.2ヘクタールの広大な農場では、500頭を越える乳牛が育てられており、1日2700キログラム以上の牛乳が生産されている。乳牛の数は、今後増える予定だという。

◇消費者との接点増強が課題
サイゴン・コープのキエン副社長は、同社でさえも、農業生産における化学肥料使用の慣習化、はっきりしない政策や規則、品質管理システムの欠如などに阻まれ、オーガニック農産物を扱うにあたって、これまでさまざまな困難に直面してきたことを告白する。

「オーガニックな農産物を生産する農家自体がベトナムにはまだ少なく、まず安定供給が難しい。さらに、消費者たちも、オーガニック製品の利点を十分に把握していないことも課題だ」と話す。

ビナミルクも、乳牛をオーガニック基準のもとで育てるのに最適な土地の選定をするためには、何年もの調査を敢行しなければならず、欧州基準のオーガニック認証乳牛の育成施設完成までに3年もの月日を要した。農場は毎年、検査機関が調査を行い、基準などの再チェックを行っている。販売するオーガニック認証生乳の店頭価格は、1リットルのカートン入りが5万5000ドン、180ミリリットルのパックが1万2100ドンで、同社の通常の製品に比べ約40%高い値段設定となっている。=写真㊦

韓国系小売り流通、ロッテマート・ベトナムのグエン・ホー・ツー・チン広報担当によると、同社ではビナミルクのオーガニック認証生乳をはじめ、複数のオーガニック認証商品を扱っているが、割高な価格設定ゆえに、通常商品に比べて販売数量では少ないのが現状という。

「実際のところ、消費者が『オーガニック』の品質に懐疑的であるということが足を引っ張っているのではないか」と、ホーチミン市のビンタイン地区に住むグエン・チー・べーさんは消費者の視点を語る。彼女はメディアを通じてオーガニックの野菜などが健康によいと知ってはいる。だが「店に行くと、複数のブランドや認証マークがあり、その中から選ばなくてはならない。どれが本当にオーガニックなのか、どれがベストなのか。消費者には簡単には分からない」と嘆く。

同市フーニュアン地区に暮らす米国帰りのラム・ハーさんも、「米国であれば、オーガニック認証の商品の審査はすべてアメリカ合衆国農務省で一元化されているが、ベトナムでは統一的な認証機関がない。それぞれのブランドがバラバラに、海外の団体や組織などからの認証を受けなくてはいけない」と課題を指摘する。

一方で、「どんなに品質のよい商品であっても、企業の流通網やブランド構築、広報宣伝の力が弱ければ、消費者の心をつかむことは難しい」というのが、民間企業、トレーサビリティ・サービス社のグエン・チー・ホン・ミン社長の意見だ。ミン社長は、オーガニック商品をはじめとする安心安全な農作物の販売促進のためには、企業の広報活動を活性化させ、消費者がオーガニック商品と通常商品とを容易に識別できるような仕掛けが必要だという。「そのためには、私企業や農協などの団体が、市場調査やマーケティング力をつけ、オーガニック商品のブランド力を強化することが重要です」

欧州で食品にオーガニック認証を与えているドイツのオーガニック認証機関、ナトゥアラント所属の専門家であるステファン・ホラー氏は、消費者の信頼を得るためには、農家や小売店が手間を惜しまず、毎年、オーガニックの認証を得ることが重要だと話す。

オーガニック分野の育成に力を入れるホーチミン市商工局のグエン・ゴック・ホア副局長は、「市当局は今後、オーガニックとされる商品の品質や生産地などの管理をさらに強化することで、生産者や流通各社に商品に対する責任を追及し、オーガニック商品の販売までの手続きを簡略化できるようにしたい」と話す。一方で、企業に対しては、引き続き消費者に対する情報発信を行うとともに、ブランドの独自性や特徴をより鮮明に打ち出し、自社製品を消費者にアピールしていくよう求めている。