伝統のベトナムシルク復権へ

長く停滞し、困難に直面していたベトナムの絹製品製造や養蚕業が近年、目覚ましい復興を見せている。海外などでベトナム産シルクの評価が高まり、輸出が増えていることなどがその理由で、各地の絹の産地では次の飛躍に向けてさまざまな努力が行われている。

◇ヴァンフックのシルク村
伝統工芸村のひとつで、通称「シルク村」として知られるハノイ郊外ハードン地区のヴァンフック村は、浮き沈みはあったものの、長く絹の名産地としての名声を誇ってきた。ヴァンフック村絹織物協会のファム・カック・ハー会長によると、村には現在246台の織機があり、年間の絹織物生産は、250~300万メートルに及ぶという。近年の絹織物による村の収入は100億ドン規模に成長し、産業に従事する地元住民も数千人にのぼる。

ハー会長は、ヴァンフックのシルク村の強みを、「新しいデザインの創造」だという。低迷期には新種の織物が生まれることなど年に数件しかなかったのだが、この5年間で、村では400種類以上もの新たなデザインを生み出すことに成功した。現代ニーズにマッチしたその絹織物は、いまやベトナム国内だけではなく、タイやラオス、その他の東南アジア諸国へも輸出される。

家内制工業とはいえないくらいまでに生産規模も拡大した。今では1軒で数十台規模の織機をもつケースも出てきた。

さらに、このシルク村で観光客らが驚かされるのが、年老いた職人のそばで、多くの若者たちがこの伝統工芸を受け継いでいる光景だ。継承者不足という伝統工芸にありがちな悩みと、ヴァンフックは無縁なのだ。

海外では「ハードン(Ha Dong)シルク」の名で知られるヴァンフック村の製品は、世界的にも評判が高い。今では、ウィーンでの絹織物展示会を始め、さまざまな国際的展示会などで出品、販売されている。

◇クアンナム省での広がり
一方で、南中部沿岸地方、クアンナム省のマーチャウ絹織物村(ズイ・スィエン地区ナムフック)にも、16世紀に始まった伝統ある絹工芸村がある。かつての王朝貴族ら上流階級向けの高級絹製品に特化していたという。しかし、21世紀の初頭ごろ、ベトナムのほかのさまざまな伝統工芸村と同様に、マーチャウの絹織物製造も絶滅寸前にまで陥った。

クアンナム省では、伝統工芸の復興のためにさまざまな対策をとおっているが、中でもカギとなるのが、地元の協力を得た観光との連携だ。彼らの努力は、同省の歴史的都市、ホイアンなどで、実を結びはじめている。

ホイアン旧市街の中心部から1キロほど離れたところにあるホイアン絹工芸村は、300年の歴史を誇る。この一帯はリノベーションされ、2012年、観光客向けの施設として再スタートを切った。

3万平方メートルにも及ぶこの村では、観光客らは絹織物の生産や地域の歴史について学ぶことができる。ホイアンはかつて東南アジアでももっとも繁栄した港湾都市の一つであり、グエン王朝の王族らが世界中の貿易船と寄港や貿易の交渉を行い、絹織物をはじめさまざまな商品の交易が行われていた。

ホイアンの絹織物の素材は、すこし変わっている。かつて、少数民族チャム族の人々がクアンナム省の高原で、カイコのエサに適した特殊な桑を見つけたのだという。いまでも、村の桑畑では、何百年を生き抜いてきたこれらの桑の木を見ることができる。

世界に向けたベトナム産絹織物の発信も始まっている。2014年にはじめて「ベトナム・アセアン・シルクフェスティバル」を開催したのをはじめ、ホイアン絹工芸村ではこれまでに計3回の国際展示会を開いている。2016年には「ベトナム・アジア・シルクフェスティバル」、昨年は「シルクと錦フェスティバル」を開催した。

また、ホイアン北部のダナン市で昨年11月、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が開かれたさいには、参加21カ国・地域のファーストレーディーたちがホイアン絹工芸村を訪れ、見学や絹製品の買い物などを楽しんだ。

◇ラムドン
もうひとつ、ベトナムで復興した絹織物生産について語る時、忘れてはならないのが、南中部高原地方の絹製産地、ラムドン省だ。1990年代以前、ラムドン省の絹製品生産はベトナム全体の絹製品の約70%を占め、絹織物生産の中心地とみなされていた。なかでも特に名高かったのが、省都ダラットから西南に約100キロ離れたバオロックだった。しかし、化学繊維や既製服の台頭などにより、ラムドン省の養蚕業と絹織物生産は急速に衰退していった。

そのラムドン省での養蚕業復興は、さまざま技術革新と世界的なシルクへの注目の高まりが契機となった。

ラムドンシルクの国際的な名声を高めようとする動きがでてきた。昨年はじめて、毎年年末にダラットで開かれている有名な「ダラット・フラワー・フェスティバル」に合わせて、さまざまなシルクPRイベントが開催された。この機会に、ベトナムを代表するデザイナーのミン・ハンさんが13人のデザイナーを招待し、バオロックシルクを素材に使ったファッションショーを開催した。

現在、バオロックでは養蚕所や絹生産の事業所が22カ所にのぼる。このうち、8カ所は繭を自動でほどき、絹糸を生産する先端施設で、8カ所が絹織物の大規模生産拠点と、絹産業も近代化、IT化をとげた。絹糸や織物の年間総生産量は、約2000トンにのぼる。これらの製品の多くは日本やインド、韓国、イタリアやアメリカなどへ輸出されている。

絹織物を発展の大きな強みと考えるラムドン省では、2020年までに省内の桑畑の面積を6200~6500ヘクタールにまで広げ、今後5~10年でバオロックをベトナムの「シルク産業の集積地」に育て上げたい考えだ。そのために、カイコのエサとなる桑の開発やカイコの品種改良などで絹生産量を引き上げるとともに、バロックシルクのブランド構築に力を入れている。また、生産性を安定的に維持し、地場の絹製品の価値を高める生産と販売網の形成につとめていくという。